ウーマンリブ vol.10「ウーマンリブ先生」

ウーマンはマンよりも ウーの分だけ知的です
ウーマンはマンよりも ウーの分だけ優しいよ

楽を観てきた。以下ダラ書き。

  • OP はやっぱりいい。踊りたくてたまんなくなる。あそこに限らずだけど、今回は女優陣がめちゃめちゃいい。
  • わたしが一番好きなのは猫背さんの京女、あやで、「うちは貧乏なうちの子の弁当や!」が出色。軽んじられてる女の切なさみたいなのが弁当話でぶわーっと立ち上がるのがホント素敵だった。そして、この人の滑舌のよさったらないのだ。声の華と間のよさもすごい。分かりやすいエロ担当の立ち位置を振られることが多いけど、芝居の強度も素晴らしい。
  • この舞台の感想として「猫背さんのスタイルに感動」ということを書いている人が多いんだけど、そういや最近の舞台ではあまり露出度高い格好してなかったかもしらん。昔は半裸とか平気で出してたので、猫背さんがスタイルいい、というのは前提知識だった気がする。「生きてるし死んでるし」の OP、ミニスカ姿で高いところ(塀?)に両足開いて立ちはだかって旗を振るシーン、あれ観たとき足のキレイさに口をぼんやり開いたまま見上げたもんです。つーか、当時付き合ってた人が「猫背椿、ちょうエロくていい」としきりに言うので何か過剰反応してた気がする。
  • 紙ちゃんのアオバはホントによくって、「失礼だよ、失礼だよ」と最初っからかっさらう感じ。今回の舞台で、紙ちゃんは「面白いことを言うヒト」「このヒトが喋ると笑えるから耳を傾けたほうがいいヒト」という役回りだった。っていうか、公演日程ラストのほうを観たらそうなってた。全部当ててる。OP のダンスでセンターなのもカタく思えるくらいの強度で、大阪のマッサー嬢の落差もばっちりだった。また、普通に可愛いからなあ…すごいよねえ。
  • 宮沢さんのミズホは、とにかく「何で処女だと男は逃げるの?!」と源ちゃんに噛み付くところが最高。あそこで「フェラとか、すっごい練習してるのに!」と言った瞬間、ステージ上・下・セットのあっち側にハケてたはずの男優陣がぞろぞろ出てきてミズホを凝視するところが大好きだ。あと、テニスボールを拾うところを、ニヤケ顔でふすま開けて見る屋敷とか…(ってそれ女優話じゃなくて宮藤話!
  • 池津さんの夏祭妻、下品なところはあくまでも池津さんがすごい、という面白さなんだけど、「うちの先生、賞とか縁がなくてさ〜」とクダを巻くくだりが大好きだった。あそこは何か、「ライバルは奥さん」という宮藤さんの対嫁感が出てるように観ようと思えば観える気がする。世に出ていたのは嫁のほうが先な訳ですから。
  • しかしながら、続いての「(賞を)あんたにやるだ」「ええーじゃないよ、当たり前だよ、あんな面倒臭い女と生活してんだから」のくだりは…対松尾嫁か? 色んなことが浮かんでは消える感じ、リアルなような、嘘んこなような。こういう「本当のこと」を 2、3 混ぜて、全体の「嘘のこと」を生々しくするのが宮藤さんは上手い。虚8実2であると宣言しておきながら、その配分率に疑問を持たせるみたいなやり方。
  • そして池津さんは女将時の腰も素晴らしくエロくてホントいい。白い綺麗な着物で、フラ仕込みの妖艶な腰振り。池津さんて、過剰な台詞でもきちんと身に着いた言葉に聴こえるのがすごいなあと思う。
  • つーか大概、大人計画は女優の芝居のほうが堅いんだよなあ、ブレがない。毎日、違う客の前で同じ水準で芝居をする能力をちゃんと持ってる感じ。それに比べて男優陣の芝居の振り幅と言ったらどうだ。演出家、日ごとに微妙に台詞違ってるところあったし。「お煙草」つったり「煙草」つったり。
  • 松尾ちゃんの役、耳で聞いてるだけだと「かさいとうすけ」ってどんな字か分からないけど、今回は舞台上に一度だけ文字が表示されるのでびっくりする。「夏祭」って苗字はアレかい、「夏祭浪花鑑」かい?
  • あの、タイプした文字が障子に投射されるところは、NAMIKIBASHI のうんこイベントで小林賢太郎がやった TEXT VJ とやらを彷彿させて笑った。そういえば今回、「アナグラム」というワードも出て来てたなあ、小林 works と宮藤 works の妙なリンク。でも、打ち出されるのは「もじゃもじゃジャングル」とかだわ、スクリーンセーバーの小ネタはあるわ、「穴車!」だわ、宮藤さんは格段にくだらない使い方を積み重ねていることだよ。
  • そういえば、「死んじゃえよ*1」を松尾→皆川に言わせるためのアレコレがいい。こないだも書いた、「チェンジですかーっ?*2」に比べて、唐突な内輪受けではなく、サインネタは最後まで持ってゆく部分だったし。
  • つーか脚本家御大、今回はリンクさせない、みたいなことを言っていたけど、他にもいっぱい、伏線というほどじゃないんだけど、「あ、さっきの…」って要素があった。パンスト、サイン、陰毛、女50人全裸で餅つき、尻の携番、左足のびっこ、具合のいい女、2本の親指、読書日記、若い頃は女に随分ひどいことをしていた、それカラオケのリモコンですけど…等々。キャンディ(あだ名呼び)が噛みやすいというのは、回想シーンでも徹底していたのに感心してしまった。
  • セックスシーン(って見せてないけど)で笑いが起こるのが素晴らしい。そこがどんだけ難しいところかっつー話だよ。そゆくだらないところで戦う宮藤さんなので、信用できるんだなあと思った。何より、あやちゃんが帰って行った直後、夏祭が遅漏云々というところ、あそこで一瞬、松尾ちゃんは自分の2本の指の匂いを嗅いでるんだよね…なああああんて下品! なあああんて細かい! ホント好き、こゆとこ。
  • あと、ついでに池津さんの女将が下着姿で「ここ何日かあたし、セックスしかしてないわあ〜」というところ、子供に会いたくないのか? と訊かれて、「会いたいさ」と言いながら足の指で塩谷の股間をぐりぐりするっていうのもいい、くだらない AV みたいで。
  • あ、AV と言えば、「女50人全裸で餅つき」のところは男性客ががっつり笑っていてよかった。あとスクリーンセーバーのヌード写真のところ。多分、宮藤さんのこういう男子っぽいネタがツボに入る男性が結構いるっぽい。
  • 源ちゃんのうた、日に日に妙に歌い込まれてこなれて来ていた。笑った笑った。
  • 日によってラストに対するリアクションが違う。「ああっ!」とすごい納得感が充満する回もあれば、「は?」という感じでぽかーんと終わってしまう回もある。あれはねえ、ホントに面白いよね。同じ舞台で、同じようにやっているはずなのに、客の笑うポイント、笑いのムードが全然、毎回必ず違う。最後に、金夜、土夜、日昼の楽、と3日連続で観たんだけど、金夜は怖いくらいにどっかんどっかん笑いが起こっていたのに、土夜はかなりリアクションが薄かった。楽は、金夜ほどじゃないけどウケがよかった気がする。ただ、ラストは「は?」って空気になっていた。最後の最後で…!
  • 中でも、公演日程後半にかけて、皆川さんの充実度はすごかったな。テンションが揺らがなくなって、客も確実に笑うようになって来ていた。元々、初日の時点で「こんなにウケまくる皆川さんは観たことがない!」と思ってたんだよねえ、「これじゃあ皆川さんじゃなくてカヲルさんだわ!」っていう。その時点から比べても、後半は更に大きな笑いが起こっていた。すごいよねえ。ま、「hon-nin vol.00」での松尾ちゃんの言い種を思うと、喜ぶべきところなのかも微妙ですが。
  • 最後のほう、屋敷が再訪して来ている翌朝のシーン、あそこでは廊下を3往復くらい走り回って大声で叫んで叫んで、最終的にはお膳をバーン! と投げ捨てて、でもその後、息を切らさずに台詞を言う皆川さんが格好いいなあと思って見ていた。廊下で屋敷と追いかけっこみたいになるところ、きのう夜は宮藤さんがつるっと滑っていて笑っちった。今日の楽は皆川さんの走る速度が遅かった。そりゃまあ、お疲れですよなあ。あと、「転換ですー!」と叫ばせるところが大好き。
  • 皆川さんと言えば、パンスト破きのところはちょっと日替わりっぽくなっている模様。後半、松尾ちゃんや源ちゃんが笑い崩れていた。破いた後「有限実行〜! 落合博光〜!」と絶叫するカヲルさん、いや、皆川さんがおかしかった。
  • 日替わりと言えば、冒頭の先生スタイルのシーン、あそこで「あの女は?」「あー、いっぱい死んでるねえ」のくだりで、足の裏に柿の種をくっつけている女が誰に似ているか、も日替わりだったっぽい。あと、「杉本彩!」「壇ふみ!」の最後に古田さんが言った女優の真似を伊勢さんがするところも。
  • くだらなくて好きだった点。
    • 冒頭の先生シーンで、殺意ちゃん*3が宇宙人ヴォイスで言った言葉を、赤いジャージと青いジャージが繰り返すとき、「ウーマンは、カーッ」と謎の音を発していたところ。
    • 松尾さんの登場シーンの、右手の親指を立てて、左手で隠して…という一連の流れの最後に、その指を口に咥えておしゃまな表情をするところ。
    • 皆川さんの橋爪さんの、「…うんっ、お食事はね、本館で…」とかの「うんっ」のところ。
    • 猫背さんの椎名あやの、喩えられるとむやみに欲情するところ。
    • 血だらけの屋敷の「着信アリ final、超えてほしいっす」「…超えたっす」の被せのときの口調。
    • 「こっちは俺一人で充分だ」
    • 「女性器のことだと思います!」のところの源ちゃんの尻。
    • 「あれ考えたの俺!」「センセ!」「俺!」「センセ!」のところの一連の松尾皆川コンビの掛け合い*4
    • 杉本彩!」「むいー!」「壇ふみ」「…」「杉本彩」「むいー!」
    • ケーシー高峰か、お前はよ! ゲッツ!」
    • 「ほーら、レマン湖の水位が上昇してるよ〜」
    • 松尾さんの「書くよ書く、書くけれども〜、旅館に〜、仕事でカンヅメなんて初めてのことだから〜」の口調。
    • 「この洗面器、オスかなメスかなあ?」
    • 「言わないよ絶対〜」
    • 「塩谷くん、何人いるんだ塩谷くん!」
    • 回想シーン、猫背さんのあやちゃんが、笑いながら鼻を鳴らすところ。
    • 回想シーン、青年になった塩谷が母親に罵られていたというくだりの「害虫、ゴキブリ、茶羽ゴキブリ…」と延々ゴキブリの名前を重ねるところ。
    • 回想シーン、池津さんの女将が何かっつーと「あは〜ん」というところ。
    • 回想シーンの塩谷の、「いや、綺麗事を言うのはよしましょう、わたしは生きたかった!」 SE ジャーン! と過剰に劇的な瞬間の後に、「ボジョレ解禁とか言われると何かもうわくわくした」と落とすところ。
    • 回想シーンの紙ちゃんの「のりお、ズッタカターやれ」。
  • だめだ、キリがない。わたしはこの舞台、ホントに好きだったなあ。上にも書いたとおり、虚実を上手いことスクランブルする宮藤さんの手法が、わたしは相当好みなんだろう。ほんでちゃんとそこに乗って、「開放されない」「宮藤はS」と書く松尾ちゃんも好き。
  • しかしながら今日、最後の最後に気付いたんだけど、夜中に送られた原稿を朝一番に編集部で確認をしてから、屋敷は湯ヶ島まで来たっていうの、間に合うんだろうか。編集部がどこかは分からないけど、朝、編集部皆で「これぞ真骨頂」って話をしたってことは、時間的には 8:30 くらいが限度だと思う。それより早いと、皆で一読して盛り上がるのはムリだろう。8:30…に新横浜にしてみようか、首都圏で、一番目的地に近い駅だとして。新幹線で三島まで行った時点で 9:22、そこから 9:40 に伊豆箱根鉄道に乗って、修善寺まで行って 10:16。例えば、「かの川端康成先生がー『伊豆の踊り子』を書いた宿」であるところの湯本館なら、ここからバスで20分となっているので、まっすぐ行っても 10:36 くらいにはなる。物語上、チェックアウトの 11:00 までに従業員控え室のロッカーに入っていた原稿を読み上げてああだこうだと言わなきゃならんので…うーん、ちょっと苦しいかも。まあ、いいんですけどね。
  • 今回、よく考えたら「演出家・宮藤官九郎」の作品を久々に観たのだ。舞台脚本家としては、近作としては「鈍獣」の印象が強く、今回の舞台のテイストを考えてもこの連想は不自然じゃないけど、あの舞台を観たとき、まちゃぴこ演出の空間の使い方のうまさみたいなものに結構感動をしたのだった。演出家が違うと舞台が変わる! …ってまあ、要するに、宮藤さんの演出があまり多層的な空間の使い方とかをしない印象があって、あんまり技術的なところが強くない人なように思っていた証拠なんだけど。それがどうですか、今回。空間、映像、音の使い方も完璧、障子というセットをあんだけ活かして馬鹿馬鹿しいシーンも仕立てていて…この人、舞台の演出もっとやったほうがいいんじゃねーかな、と思った訳ですよ。少なくともわたしは、宮藤さんの演出作品がじゃんじゃん観たくなった。魂も演出作品ちゃ演出作品ですけどもね、今となっては舞台作品じゃないのでここでは外して考えたいんだけども。
  • 魂は愛しているし、テレビドラマも映画もいいし好きだけど、舞台に軸足置いてる宮藤さんがわたしは好きだ。効率の悪い表現だと思うけど、だからこそ、その効率の悪いことを年に1回、必ずちゃんとやる宮藤さんが格好いいと思う。ホントにバカみたいに忙しい人だということを分かっていても、ウーマンリブ、是非来年もやってほしいなあと切実に思った。
  • ちなみに本日は楽だったので、最後の皆川さんの締めの後に全員でもう一度お辞儀をして、その後もう1回、演出家がひとりで「21〜♪」と言いながら舞台に飛び出して来て、「ありがとうございました」と言って丁寧にお辞儀をしてハケて行っていた。長い手足で、細身のスーツで、多分一番宮藤さんの身体的な特徴が男前方面に強調される格好で、しかし半笑いなところがやっぱりよいのだなあ。
  • そして終演後、劇場出たところでお友達と喋っていたら、終演後15分も経ってないんでは、くらいのタイミングで、楽屋口から私服の宮藤さんが出て来たのにびっくりした。次の仕事が詰まっているんですかね…それにしても早すぎる…! 普通に劇場から出てきている人たちの集団に紛れてエレベータに乗って去って行っていたんだけど、ワールドインポートマートのほうから出ればファンと一緒にならなくて済むのになあ…と思った。勿論、駐車場は文化会館の下なんだけど、一旦渡り廊下の向こうに行けば、落ち着いて移動もできように。あんな狭いエレベータで、自分の書いた芝居をさっきまで観ていた人たちに囲まれて移動するのって何なんでしょ? 本当に謎すぎるマインドである。

*1:実際に松尾さんが皆川さんにこう言った、というエピソードがあるのだ。言った本人は覚えていないそうなんだけども。

*2:「メタルマクベス」の座組で一緒だった松たか子ちゃんが、地方公演中、罰ゲームかなんかで、深夜に皆川さんの部屋をノックして叫んだという台詞。ラジオでこの話が出たとき、宮藤さんが極端にウケてた記憶がある。

*3:ある方が日記で使用されていた呼称。上手い! と思ったので使わせていただいてます。ありがとうございます。

*4:何か、あそこだけ「熊沢パンキース03」「春子ブックセンター」みたいなノリだった。むぬすごいテンポとテンションが要求される、動きや笑いのキッカケばっかり、ぎっしり詰まった一連の台詞群たら。