寿初春大歌舞伎/歌舞伎座

夜の部に行って来た。

一、廓三番叟(くるわさんばそう)
二、祇園祭礼信仰記 金閣寺(きんかくじ)
三、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
四、処女翫浮名横櫛 切られお富(きられおとみ)

いやあ、楽しかったああああ。感想をまともに書くほど歌舞伎の見方をちゃんと掴んでいないのだけど、「金閣寺」はあんなに雪姫(玉三郎)がフィーチャリングされている演目だとは露知らず。縄で拘束された状態であがく姿があんなに美しいってどおいうことだ? 幸四郎も、何だかんだ言って雪姫がすきなのだな…みたいな、変な純情が出てて、気持ち悪いけどよかったし、吉右衛門の何とも言えない華やかさは何なのかなあ。ううううん、すっごくよかった。舞台装置も「これぞ歌舞伎!」という感じでねえ。
「春興鏡獅子」はめちゃめちゃ楽しくてどうしようかと。舞踊なのに一番集中して観てしまった。わたしは3歳から20代半ばまで日舞をやっていて、一応花柳の名取なんだけど、子供の頃に「胡蝶」て組踊りはやったことがあって、その元ネタをやっと知った感があった。そうそう、あの鳴り物、使った使った! みたいな。今回の胡蝶は9歳と10歳、片方は福助の次男だそうで、えらいかっちり踊れていて、後シテの獅子の精と絡むところとか、間がばっちりはまっていてすごくよかった。子役の可愛らしさとかじゃなくて、格好よい、というよさ。
つか勘三郎! わたしは歌舞伎の舞台で勘三郎(当時は勘九郎)を観たことがあったのは芝居の演目だけだったので、舞踊だけの演目でも、やっぱり「芝居」っていう感じの踊りだったのが相当面白かったなあ。前シテの可憐さは意外ですらあった。女も踊れるんですね、あの人。獅子頭に振り回されるところの芝居っ気にはニヤニヤしてしまった。後シテのキレ味はさすがというか、ダイナミクスの妙を覚えたなあ。あの年齢であんだけ動けるのってどういうことなんだろう。獅子の精に扮して再度舞台に出てきて、花道の出端があって、舞台まで進んできて、そこで二畳台んところでバン! と足を踏み鳴らして見得を切る、あの瞬間にバーッと鳥肌が。舞踊としての折り目正しさとかじゃなくて、メリハリのある役者の踊りだなあ、という強烈さだった。色々言う人もあろうが、わたしは好きだな、勘三郎の踊り。観てるだけでうずうずと、沸き立ってくるものがあってたまらない。
このへんについては帰宅後、1時間以上に渡って両親と熱く語ってしまったのだけど、歌舞伎観劇歴50年以上にもなる母いわく、おととしの浅草歌舞伎で七之助がやった「鏡獅子」が素晴らしかったのだそうだ。いわく、この演目を得意とするような役者は、どんなに手を抜いても85%以上できて当たり前であると。殊に勘三郎なんかはもうポイント抑えすぎているので、後シテの毛振りとか、相当抜いて踊ってるのがありありと分かるのだと。でも菊之助にせよ七之助にせよ、若手は死に物狂いで挑むことになる演目なので、実に切実で見応えがあるということらしい。七之助の前シテの弥生はそりゃあ美しかった…と母があまりにも得々と繰り返すので、聞いてる間に滅法口惜しくなってきたほどよ。なんつうか…それは観てみたかったなああああ、今更だけど! しかし「これで舞踊賞とか絶対獲るわね!」と鼻息荒くしていたらあの事件が…という感じだったらしく、それで初めて、ああ、「真夜中の弥次さん喜多さん」公開の年か、と納得した。うん、勘三郎襲名の年だあね。
そういえば、何かの機会に勘三郎(もしかしたらまだ勘九郎だった頃かも)が「あたしだってね、まだ鏡獅子をあいつら(勘太郎七之助)に渡したくないって気持ちだってありますよ*1」みたいなことを言っているのを聞いたことがある。勘三郎親子で三人連獅子などをやると、勘三郎だけ毛振りが弱いのがはっきりと分かるのだそうだ。同じく、幸四郎染五郎親子も、染五郎の振りの毛先までがぴしっとなったムチのようなしなやかな動きに比べて、やっぱり親の世代はキレが落ちるのだと。やあ、そりゃそうだ、やっぱり体力ないと無理だよアレ。「朧の森に棲む鬼」の染五郎の芝居のハードさに本気でビビっていたわたしだが、よく考えたら歌舞伎役者の体力はテレビや映画の役者とは全然違ってるよねい。「ニンゲン御破算」のときの勘三郎もとんでもなかったもんなあ。恐るべし梨園。うーん、まったくもって奥深いったらない。そんな「弱い」と言われる毛振りでもわたしは口を開けて楽しんだのでいいんだけど…でも連獅子観たいなーとちょっと思い始めたりもして…ああ、歌舞伎に関心もち始めるのがあと2年早ければ勘三郎襲名公演に間に合ったのにね…(遠い目。
「切られお富」も、福助の悪婆の下品さでお腹いっぱいだったんだけど、近くの席にツアー客がいて、何でも思ったことを口に出して喋るおばちゃんたちに閉口させらた。福助橋之助が出てきたら、「あら兄弟! 兄弟じゃない、ねえ、兄弟よねえ」って…キミら以外、この劇場にいる全員が分かってますから! みたいな。つか、幸四郎吉右衛門だって兄弟だったじゃんね…あと、「やっぱり鏡獅子は菊りんが最高だと思うワケぇ〜」とべったら喋っていた30代後半女性2人連れにも微苦笑した。菊りんて誰だよ*2! あとへったくそな掛け声*3があまりにも多くて卒倒しそうだった。歌舞伎座来る度に1人や2人ひどい人がいるけど、今日はホントにひどかった。「切られお富」になってやっと上手い人がちらほら掛け始めたけど、それまではもう全滅状態…役者は文句言えなくて可哀想だねえ…。
ともあれ、この特異なジャンルと現代演劇のメガミックスを楽しむために歌舞伎を改めて観出したような感じなので、色んな活動をしている役者を歌舞伎の舞台で観て「わー」ってなる感じがあるのだけども、中でも勘三郎の舞踊を見たら色々感じるところがあった。日舞、また始めようかなあ…みたいなね…これは宮藤さんの舞台で、嫁・八反田リコさんの振り付けのダンスを観たときの感じに近いのかも。踊りたくなる感じ、うずうずさせられる感じ。こういうのが好きなのだなあ、わたしは。
しかし、ホントに楽しくなってきた、歌舞伎観るのが。来週は浅草歌舞伎に行くのでこれまた楽しみだ。第二部取ってるんだけど、第一部も観たくなって来たなあ。だって三階席ならにせんえん…うう、どうしよう…。

*1:何ならモノマネ推奨で。

*2:どうせ菊之助でしょ…? こういう手合いは何だかんだ言って美形が好きよねえ。ほんでこの人たちは「朧」のカレンダー+パンフの紙袋を提げていたので、演舞場の昼公演とはしごしてたっぽい。ああ、なるほど…遠征組ですかね?

*3:よっぽど「大江戸コール&レスポンス」のほうが…と思ったわたしは殴られても仕方ない。まあ、本気の「中村屋!」連呼が聴けたので、ひとりでにやけてましたけども何か?