ラーメンズ第16回公演「TEXT」/天王洲銀河劇場

初日を最前列で観て来た。
ラーメンズファンはヘイト!ネタバレな人が多いから、感想とか書いてもどうせ誰も観ないだろうが、己メモと、今日劇場で会った何人かのお友達たちに読んでほしいから書く。以下ネタバレ。
モチーフは銀河鉄道の夜、と気付いた瞬間に胸が痛くなった。最後のコントの着地点が見えたので。
ふたりに見えてもほんとうはひとり。でも、ひとりでいたときも、ずっとふたりでいたみたいな気持ち。
久しぶりの本公演で、こんなのを見せる小林さんは本当にずるいと思う。ファンなら誰しも、ふたりが、ふたりとして舞台に立っている姿を見たくて堪らなかったことを知っているくせに。長い空白の時間、彼らの片方を板の上に認める度に、もうひとりの不在に「足りない」思いを重ねて来たことを、誰よりも知っているくせに。
ラーメンズのステージは、慇懃で賢くて計算されていて整頓されていて、だけどときどき、過剰に感傷的なところがある。わたしは頭が悪いので、センチメンタリズムにはみっともないくらいに弱い。
長縄部もバースデーもカウントもマープーも男女の気持ちもギリジンも桶屋も小さな会社も金部もレストランそれぞれも日本語学校フランス編もアメリカ編もイタリア編も読書対決もバニーボーイもカタシ父さんも壷も片桐概論もゴトーもできるかなも好きだ。でも、やっぱりラーメンズが特別なのは、小林さんがパズル的な偏執で仕立てたコントが面白いからだけじゃなくて、オオシマのことを分かりきっているからこその銀ちゃんの意地悪に、画家のカタギリくんが泣きじゃくるコバヤシを面倒臭がりながらも構ってあげてる様子に、ノスとトガシくんの間に漂う手放しで優しい空気に、胸がぎゅーってなるから、だ。
そういうバカなわたしなのでね、ずるいなあ、と思いながら、やっぱりちょっとだけ泣いてしまって、要するに、そうだよ、これが観たかったんだ、ってそういう話。ふたりがふたりでやるからできること、それをやらなきゃ、ラーメンズじゃなきゃいけない意味なんてないんだから、ふたりでやること、ということを、大事に、大事にしてくれたらいい。わたしが彼らに期待することというのはもう、ホントに、ただそれだけのことなんだなあ、と、そう思った。うううん、思う壺つうやつですねえ、くそう。
さて、それはさておき、演者の仕上がりとしては、珍しく相当に甘い状態での初日だったと言えるのではないだろうか。今回のホンは「言葉」ネタが多いので、多分台詞入れるのがものすごく大変だったんだと思う。っていうか、入りきってない感じかな、台詞の順番間違えてるとことか、ふたりともにそれぞれあったし。あっちが台詞を探り探りやっているから、間もぐずぐずで、笑えるべきだろうところも笑えなくなったり、逆に客が不安になって要らないところで無理に笑ってしまったり。このホンのあるべき姿までは今日は観られなかった感じがしたので、10日後、このぐずぐずの間がどう固まって来ているのかを観るのが楽しみだな。
小屋の大きさが変わったら、表現のフォーマットが変わるのかと思っていたけれど、そんなこともなく、今までどおりに、黒い背面、センターに出はけ口、10数センチの高さの台、黒い箱馬、黒一色のスリーピース、髪型とメガネによるキャラの振り分け、はだし…という要素を標準装備。ギリジン、レストラン、ドラマチックカウント、心理テスト、金部、とこれまでの作品で扱って来た要素をキレイにリバイスして新しい作品とした感じもあり、何だろうな、ビギナー向け? そんな匂いのする公演でもあった。
前のほうの席に男性客が多かったのも印象的だったよ。これまでのラーメンズは、女子供≒ヲタ相手に深く狭い商売をしていたのが、そこそこ浅くても広いところにリーチすることを意識しているような、そんな雰囲気を感じないでもなかったり。でも、そのいわゆる戦略めいたものが、作品そのものの変化に通じてしまうってことではないようで、そのことが分かっただけでもわたしは、今日行ってよかったなあ、って思ったんだった。
やっぱり好きです、ラーメンズが。無彩色の中、照明を浴びたふたりが立っている画の美しさはナニモノにも変えがたい。そのことをやっと思い出させてもらった感じ。おかえりなさい、ってホントに思った。