勘三郎 クドカンと夢コラボ

■前日約束

脚本、俳優、映画監督、ミュージシャンと多才ぶりを発揮して若者にカリスマ的人気の宮藤さんが、初めて歌舞伎台本に進出する。勘三郎のオファーに応じたもので、人気・実力とも当代きっての大看板同士のタッグ。昨年、ドラマ「タイガー&ドラゴン」(TBS系)の脚本を手掛けて落語ブームのきっかけを作ったクドカンが、今度は歌舞伎でどんな世界を見せるのか、注目だ。
ビッグプロジェクトは2人で約束したばかりだが、勘三郎がうれしさのあまり? 21日、生出演したNHK「生活ほっとモーニング」で自ら明かした。
勘三郎は、かねて交友関係にあった野田秀樹さん(50)に働きかけて2003年に「野田版 研辰の討たれ」を実現させ、各方面から絶賛された。市川染五郎(33)主演の「決闘!高田馬場」(3月上演)を書いた三谷幸喜さん(44)にも以前からラブコールを送るなど、現代演劇のトップランナーを歌舞伎に引き込もうとしてきた。そんな話の流れの中で「実は、夕べも新しい人が決まった」と発言した。

■3年後に

想定外発言にびっくりした司会者が「どなたですか?」と聞くと「まだ言っちゃいけないかな」と苦笑いしつつ、「アタシの昔の名前(中村勘九郎)と同じ人」とポロリ。司会者も「宮藤官九郎さんですね」と応じ、勘三郎も認めた。
勘三郎が出演中の東京・渋谷のコクーン歌舞伎東海道四谷怪談」を20日に観た宮藤さんが感激。楽屋を訪れて興奮気味に「ぼくも歌舞伎を書きます」と約束したという。
もちろん内容などはこれからだが、勘三郎は「3年後に(上演を)やる」と明言した。歌舞伎の世界だけでなく、さまざまなジャンルに刺激を与える作品が期待されそうだ。

この「生活ほっとモーニング」という番組をご覧になったcurioさん*1がリアルタイムにメールをくださったんで、この話自体知ってはいたんだけど、「宮藤歌舞伎を」つうのはこの2人が顔を合わせる度に出てる話題だったので、「ん? また…?」と、信じていいのかピンと来てなかった。しかしながら、きのうマシーン*2でこの記事が出たことを知って、「ああ、今度は本決まりなんだなあ」って思ったという次第。
先週会った友人が持っていた今号の「せりふの時代*3」でも、中村勘三郎対談連載のゲストが宮藤官九郎で、へー、とぱらぱら見せてもらって、自分でも後から買ったんだけど、書くならどんな内容がいいか、宮藤さんがあれこれ言ってるのが面白かったなあ。わたし自身、初めて作家・宮藤官九郎はすごい! と思ったのが原作付の脚本*4で、今度のメタルマクベスもすぎょい楽しみにしている身分なので、歌舞伎の古典を下敷きにした「宮藤歌舞伎」が成立するなら、ヒジョウに楽しみだなあと思う。
わたしが勘三郎を好きなのは、「古典芸能として保護してしまうと歌舞伎は衰退する」という発想で現代作家の活動と連携しようとしてるところだし、わたしが宮藤さんを好きなのは、こういう「どうやったって文句を言う人がいる」ジャンルでも怯まずに真っ向からチャレンジして、自分なりのやり方で必ず完遂して来ているところだ。勘三郎が宮藤さんに目をつけてたのは鋭い。こういうチャレンジを好む作家というのは実は意外と限られてる。
あとアレだ、20〜30代の「歌舞伎ファン」を自称する人に限って、こうやって現代作家が歌舞伎の戯曲を書いたりすると「やっぱり歌舞伎とは違う」と言いたがるんだろうけど、100年前、200年前の歌舞伎がどんなだったのかなんて、今の世の中の誰も、その目で観た人はいない訳で。自分が観たことあるものと違うから「歌舞伎じゃない」ていうのは僭越だと思うんだよね、こんなクローズドな世界で、伝統を守りつつも糊口をしのいでゆかなきゃならない梨園の人たちのことを思えば。
今の60代と30代とを比べてみても、歌舞伎を楽しめる受け皿を持っている人の数は全然違ってるでしょ。30年後、今の60代と同じだけの人数が歌舞伎座に足を運ぶか? っていうと、このままだと明らかに危ないよね、30〜40年前、歌舞伎役者が銀幕のスターでもあった頃に比べれば、歌舞伎役者を観に劇場に行く人は少ないんだし。
だとしたら、もっと多くの人を歌舞伎座に連れて来るためのあれこれっていうのは、紛れもなく、30年後、50年後の歌舞伎界のために必要なことだと思う。歌舞伎好きなら、このチャレンジを応援してしかるべきなんじゃないのかね。わたしはこういう発想で動いている勘三郎がわたしは好きだし、格好いいなあと思うよ。目先の「歌舞伎らしさ」とやらにこだわってあれこれ言う人は観なきゃいいじゃん、て思ったりもする。
ま、わたしは「歌舞伎らしさ」より、宮藤さんや勘三郎と同じ時代に生まれて、彼らが新しくやろうとするあれこれをリアルタイムで観られるっていうほうが重要ってことで。どうせ生きてる間に観られるものしか観られないんだしさ、新しくつくられたものを観るほうが予想不可能でドキドキするじゃないか、って思うけど、今イマ、「歌舞伎らしさ」を味わわせてくれるもののほうが重要、って人も中にはいるんだろう。それは悪いことじゃない。でも、そういう人は観なきゃいいんだと思うわ、こういう新作は。
という訳で、わたしはホント楽しみにしてるって話なのだった。3年後を楽しみに、明日も頑張ろう、みたいなことよ。うん。