ヨーロッパ企画「ブルーバーズ・ブリーダーズ」

東京公演3日目、かな? 観て来た。感想ともつかぬ感想をメモる。
面白かったー! ヨーロッパ企画は生で観るのは4作目、映像含めると7作目なんだけど、まー実に毎回毎回手を変え品を変え、意欲的な「新しいやり方」を試みているのが素晴らしい。ちょっと昔のラーメンズみたいなところがあるかもしれない。英単語3部作くらいまでが好きだった、というようなタイプのラーメンズファンは結構親和性高いんじゃないかなーとふと思ったりした。
要は「違うこと(他人とも、自分が前にやったこととも)をやる」という課題を、変にすごぶらないでやっているのが清清しい感じなんだよね。新しいことをやろうとする人って時々、その「新しさ」に対して過剰に自意識を燃やしていて、傍目に気持ちが悪いこともあると思うんだけど、ヨーロッパ企画にはそういう嫌らしさが殆ど感じられない。わたしの鼻が悪いだけなのかもしれないけど、このあっさりとした革新がわたしには面白くてたまらない。
今回の作品は1時間10分ということで、短いなあと思っていたけど、終わってみれば、この尺でも「ぎりぎり」もしくは「ちょっと長かったかも」と感じるくらいの密度だった。密度っていっても、いわゆる「濃い芝居」っていうんじゃない。舞台で行われているのは、いつものごとく単純な会話劇。ああだこうだと好き勝手言い合う無責任な人たちと、立場上それを留めたりまとめたりしなきゃいけない人たちの攻防、ばたばたしたやり取りの連鎖。ただ、そういう「テンションが上がりきった会話」が1時間10分間、延々続いていたのです。シーン替えがないし、登場人物の出入りもない。一幕ものどころか、一シーンで1時間10分。そんな芝居だった。
会話がずっとずるずる続いて、特に劇的に状況が変化することもなく、何の解決も見ないままに舞台が終わってゆく感じ。その「何も起こらない具合」は、なんとなくのオチをつけないと落ち着かない人には絶対に作れない類のもので、あれができることがまず、上田さんのひとつの能力だと思う。殊に今回はさしたる物理的な新展開がない分、その「何も起こらない具合」はいつも以上に凄まじかった。青い鳥に関する物語だからと言って、「身近なところに幸せは…」とかもっともらしいオチをつけたりはしない勇気ったらない。そゆとこすごく好きです。
それから、「ただグダグダしゃべっているだけ」と勘違いされやすい役者陣の能力の高さよ。あんな、ちょっとした動き、ちょっとした言い回し、言葉、ひとつひとつが綿密に次の流れへのキッカケになる芝居、ほかに見たことない。それが1時間10分、ノンストップで続くのだからして、こりゃあもう、役者たちに求められている集中力ったらないぜ。台詞を言っていないときに芝居をするのか、しないのか、みたいなところで言えば、板の上にいる人たちは、1時間10分の間芝居が一度も途切れないってことだ。2人芝居とかじゃあるまいし、こんな舞台滅多にない。あれをやり切る役者陣、あの全員の動きを演出した上田さんに、本当に感服である。
…とかこういうことを書くと、「そんな風に裏側の大変さを評価するのは舞台の感想としてゆがんでる」みたいに言う人もいたりするのかもしれないけども、わたしはことヨーロッパ企画については、この楽しみ方が大アリだと思っている。「違うこと」を実現する、その新しいロジックそのものが評価に値するっていう、それくらいの強度で「違う」からだ。いわゆる舞台表現をとっているのはたまたまなんではないのかなーとも思うんだけど、そもそも舞台だからって、役者の芝居だけから感じ取らなきゃいけないっていうことではないと思うし、そんな平らな基準で何でも判断しちゃっちゃつまらんし。台詞の上手さとか、芝居のトーンとか、照明やセットや音楽等々と同じように、仕掛けの精度に感動する。それがわたしの、ヨーロッパ企画に対する楽しみ方なのであります。
それでも、客席にいるときに、無味乾燥な理性だけの楽しみしか得られないかといえばそんなことはなくて、役者陣のフレッシュな(時として素人臭いと誤解される)芝居を通してその「仕掛け」を楽しむことができるので、すごく血の通った楽しさを得ることができるのも、ヨーロッパ企画の大きな魅力だと思う。何つうか、ヨーロッパ企画の役者っていうのは本当ーーーに「いい」んだ。例えば一時期、「大人計画の役者」的な個性がテレビドラマの脇役とかにもてはやされて、それぞれの役者のタイプがぜんぜん違うのに、個性の濃度は何だか似ている、みたいなことがあったと思うけど、「ヨーロッパ企画の役者」にも同じものを感じる。どこか別のところでやっている仕事を見ても、「ヨーロッパ企画の役者」だと知ると「ああ、なるほど!」ってなるような感じ。そういう「匂い」みたいなものが共通して感じられる。
これって多分、すごく独自の価値観を持った人に率いられているカンパニー特有の雰囲気なんじゃないかなあと思うんだよね。作家、演出家の色が強いというだけでなくて、その色を損なわない実務担当者がちゃんといて、経済活動も含めて、いろんな意味で、ちゃんとその価値観を貫けている集団。そういうところにいる人は、安心してその色に身を浴せるのではないかという気がするんだけども。
だから、彼らがその色を存分に出して生き生きと舞台上でジタバタしているのは、他の役者さんじゃなく、彼らだから楽しめるんだと思う。そういう意味では、今回もホント、皆さんすっごくよかった。今回の芝居は主要な役者さんたちの持ち味をそんなに前に出してなくて、ちょっと勿体ない感じもしたけど、まあ、今回はそこには力点を置いてなかったってことなんだろうなあという点で納得もできたしね。
あと、今回初めて生でヨーロッパ企画を観たと言うキクさん夫妻とご一緒したのだけども、終演後、「さーやさんが好きだって言ってた役者さん、誰だか分かりましたよ」とムヒヒと微笑まれ、訊いてみたら石田くんだとキクさんは思ったそうである。うわ、そうか。以前、宮藤ファンの友達に「ヨ企画では酒井くんが」と言ったら意外がられて、「だってわたしたちB専じゃない?」と言われたことがあったのを思い出した。つかB専て。
…いやいや、わたしは本来、酒井善史くんのような、チノパンが似合う犬っぽくってひょろっとした男の子が好きだったのです。ハチクロて言ったら真山っていうような。今日だってずっと「可愛いなあ」とにこにこ眺めていたし。でも大人になって、見た目だけじゃなくて中身も併せて人に惹かれるようになると、なんかもっと面倒臭い、頭がおかしいタイプにばっかり引っかかるように…(うなだれ。
…いや、わたしの好みの話はどーでもいいんだってば!ば! とにかく、面白かった、ということだ、書きたかったのは。うう。
しかし、こんだけ褒めていても、ヨーロッパ企画にはわたしが弱いタイプの「ゆがみ」があまりないから、極端にハマることはない気がする。でも、よそのどことも違うものを、違うやり方で見せてくれるから、すごく面白いと思うし、これからも「次に何をやるのか」そのものが作品として成立するようなこの特徴的なスタイルを、適度な距離感でずっと観て行きたいなあと思った。観れば観るほど、次のバリエーションも楽しみに思えるっていうだけでも、すごく稀少な劇団ですよ、この人たちは。本当に。
次回彼らを見るのは来月のボロフェスタ*1だ。こういうイベント参加の形態で彼らを観るのは初めてなので楽しみ楽しみ。

*1:フツーに書いてるけど京都だよ。行くんだけどさ。1週前まで京都では「舞妓Haaaan!!!」のロケをやっているようで、エキストラ募集のスケジュールを見て口惜しがっていた。