INOUEKABUKI SHOCHIKU-MIX 「朧の森に棲む鬼」プレビュー公演

色々と書きたいことはあるけど、まだプレビューだしなあ。そもそも、何か書いても未見の人は皆どうせ読まないんだもんねえ? じゃあねえ…カテコ4回(プレビューなのに)、締めはスタンディングオベーション(プレビューなのに)、とかはセーフ? あとはねえ、ええと、新感線恒例、パンフでのゲストコメントの件。怒られたらいやなんで畳みますが、今回、阿部サダヲにコメントを寄せているのはこの方です。どーん。

阿部へ。

またあれか?
飛ぶのか? 跳ねるのか? 飛び跳ねるのか? 歌うのか?
踊るのか? ありえないくらいの大声を出すのか?
客席に見得を切るのか? 拗ねた目で見つめるのか?
蹴るのか? 殴るのか? おもしろい顔をするのか?
すごいな、俺には真似できないんだ。おもしろい顔くらいしか。
たまにはじっとしてろよ、といいたいが、
お父さんだしな、じっとはしてらんないし、
新感線だしな、じっとしててもしょうがないな。
ペース配分考えてそれなりにやってくれよ。
でも、欲をいえばびっくりもしたいな。
まあ、欲は欲として聞いてくれよ。

禁煙成功してるのか?
俺は失敗したよ。

松尾スズキ(作家・演出家・俳優)

きゅうううううん。
このコメントを読んで、一幕が始まって、そしたらホントに阿部さんが飛んだり跳ねたり、飛び跳ねたり、ありえないほど大きな声を出したりしていたので、結構笑ってしまったのだけど、役柄としては単純バカで愛らしい(主役の)弟分、という感じで、既視感が結構すごかった。ハリコナと灰次と猿飛のサダ、を足して3で割ったような…そんな風に思えて、それでもかわゆかったし、何をしても客が笑うし、阿部さんのパブリックイメージにがっつりはまる憎めなさだけど、「びっくり」はないなあ、と思ってた。
そしたらアレだ、二幕が全然トーンが違ってて。阿部さん自身に対する「びっくり」というか、阿部さんに対してのあてがきの種類への「びっくり」でもあったけど、非常ーーーーっによかったので、虚を衝かれたような心地がした。松尾ちゃんが観たらどう思うかは分からないけど、阿部さんのキンタという役、すっごくよい役だったよ。いやあ、堪能したあ。今日行ってよかったあ。
他にも、古田さん、秋山さんの役も素晴らしい。いわんや、染五郎の役をや。なんかね、わたしはこれまであんまり新感線観てないんだけど、その中でも、彼らの舞台では、分かりやすくいい人だったり、悪い人だったり、っていうキャラクター設定が主流だなあ、と思っていたところがある。勧善懲悪の様式美みたいな。でも今回はそういうのだけとはちょっと違う、人間の二面性とか、複雑さとかも表現されてる感じがした。そのことでなんか、奥行きがある舞台になっていてすごくよかったのだ。
相変わらず、笑いのベタさとかはアレだけど、阿部さんとか古田さんとかの間にはめると、何でもおかしく聴こえるから、それはもうしょうがない部分があるし。今回はその「ベタ」への抵抗感も殆ど感じなかったのがすごい。それくらい、舞台全体が相当好みだった。
ただ、当たり前だけど、上のほうの席だと顔の表情がホントに見えない。新感線の舞台は、テクニカルな意味での動きががっちり決まっているから、「芝居」の余地としては声と顔の表情が主力になっちゃうけど、顔が見えないと声の芝居で堪能するだけになってしまうのだな。それでも、今日、殆どの役者さんの芝居については充分楽しめたので、それはそれでいいのかもしれないけど、上のほうの階から観る人はオペラグラスとか持って行くと、楽しめる幅が広がっていいのかもしれない。
あと、「動きががっちり決まっている」と書きはしたけど、その中での身体のバネとか、跳ねたときの滞空時間の長さとかは、やっぱり阿部さんは出色だったよ。染五郎もすごい身体を使った芝居をしていて、殺陣はさすがとしかいいようがない淀みなさ。声もよかったんだなあ、この2人。阿部さんの声はやっぱり兵器っぽい強烈さだし、染五郎の台詞回しはエンゲキの役者には出せないコブシが廻っているような瞬間もあって、実に実に雄弁だった。
…って、ああなんか、似たようなことをいっぱい書いているのでこのへんにしておくけど、わたしはかなり好きな舞台ですコレ。次に見られるのは本公演に入ってから2週目。間が空くので、今日観られてホントによかった。