くるりワンマンライブツアー2009〜敦煌(ドンファン)/日本武道館(2009.07.09)

今日になってネットを見て失笑。

ボーカル&ギターの岸田繁(33)は「1つだけ言っておきたいことがあるので言わせて下さい。ライブハウス武道館へようこそ!」と氷室京介がBOφWY時代に残した名ゼリフを叫び、約1万1000人の観客を盛り上げた。

ひどく不思議なライブだったなあと思う。ステージ上のパフォーマンスというか、演奏の質はすごく高かったし、岸田、佐藤、ボボの3人*1は大変気持ちよさそうに音を鳴らしてた。でも、客席はなんだか、全体的に戸惑いに包まれていたような気がして、3人がぎゅっと集まったステージ上の温度と、それをぐるりと取り囲む3階までの客席の温度差が、曲ごとにどんどん増して感じられて、不思議にぽかーんとした雰囲気だったように思う。
このツアーでは、ここまでは本当に3人だけで演奏してきたようで、武道館では鍵盤とか入れるかもと事前に想像もしていたんだけど、蓋を開けてみたら最後まで基本3ピースを貫いていて。今回のツアーをレコ発と捉えるなら新譜からの曲が中心となるのは当たり前で、でも新譜でも鍵盤とかホーンとかフィドルとか入っていた訳で、3ピースだとそのままでは再現できないから、どうするのかなあと思っていた。そしたら、実にうまくアレンジして3ピースできっちりこなして見せてくれたし、ついでに昔の曲も時期を問わず、いろんなアルバムの曲を3ピースでやりきっていた。アレンジ力と演奏力の向上がすごくて唸らされた感じ。
でも、なんか、今まで観てきたくるりのライブと空気が違っていて、そこがわたしには客の戸惑い、みたいに感じられたのかもしれない。ライブの1曲目は「ワンダーフォーゲル」だったし、「ばらの花」も「ロックンロール」も「東京」も「虹」もやった。でも、そういういわゆるキメ曲以外のとき、座ったりトイレに行ったり、中には寝たりしている客がものすごくたくさん目に入ってきて、そういう人たちがキメ曲でよいしょと立ち上がったりしているのを見ると、なんだか、客が平均的に求めているものと、ステージ上にあるものがズレているような気がしてしまった。
でもこれ、客と本人たちのどっちがいいとか悪いとか、正しいとか間違ってるとかではないだろうし、なんとなくしょうがない感じもするんだよなあ。「ワルツ」で特別なことをしすぎたから、そのあとのチョイスは何を選んでも中途半端に見えてしまうだろうし、だったら○枚目の頃みたいな曲や演奏が見たいなあ、と客が個々に思うのも仕方がない感じ。だからって、前と同じことをできる岸田じゃないのも仕方がない訳で。すごく足場が定まらない感じの雰囲気に、くるり、というか、岸田繁の業の深さのようなものを改めて実感し、思わず腕組みしながら観てしまいました。
わたしの中の好みとの対比で言うと、きのうのくるりよりもっと、うねるタイプのリズムを強調しているバンドの音のほうが好きだなあと感じた。これは多分、ボボのドラムのタイプが好みと違う、っていうことだと思う。でも、ボボのドラム的なものを志向/指向していることで、今のくるりの音全体がちょっと昔のロックバンドみたいにタイトになっている印象を受けて、そこはとても面白かった。ちょうど MC で去年の The Who の来日公演を武道館で観た話をしていて、ピート・タウンゼントウインドミル奏法(単に腕を風車のようにぐるーんと廻してからギターを弾くってやつ)は音に関係ないとずっと思っていたけど、真似してみたら自分がアガった、とか、そういうことを岸田が言っていたんだけど、The Who みたい、とまでは言わないながら、1曲3分しかなかった頃のロックバンドみたいな、1曲がぎゅっとした感じに仕上がるような、そういう方向性みたいなのを感じた気がした。アウトロを過剰に引っ張ることも殆どなかったし、そういえば最近のくるりは、きちんと綺麗に終わる曲が多いなあともふと思った。情念爆発のギターソロ延々でフェイドアウト、みたいなモードじゃないんだなあと。
でも本当は、新譜が出た時点でこの宙ぶらりんぽい雰囲気は感じてはいて。ほんで、「ワルツ」の曲、たとえば「ブレーメン」や「ジュビリー」をまた演奏できるようになると、次の展開が出てきそうで、早くそこまでいくといいねえ、なんて生意気なことを夫に言ったりしていた。そしたらきのう、3ピース+サポートギター1本で「ブレーメン」をやって、それがすごく、ものすごーくよかったので、びっくりしたというか、ちょっと感動してしまった。「ブレーメン」はわたしが勝手に感じた基準ではあれど、思ったよりずっと早く超えたなあ、みたいな。あと、4人でやってもあの曲のよさがまったく損なわれていなかったことで、改めて曲の「強さ」を実感したっていうのもあるし、その「強さ」を生かすためのアレンジをミニマムな楽器でもできる「うまさ」にもぐっときた。
そう、今のくるりはなんだか、やけにうまいんだ。そのうまさに、客の気持ちがついていっていない感じなのかもしれない。「ばらの花」も、4人なのにスカスカした感じや物足りなさは一切なく、いい感じに聴こえていて、ギターの音作りとカッティングの工夫の賜物なんだろうけど、うへうまい、と唸らされた感じ。去年の年末、CDJ で観たくるりの、3人でやった「HOW TO GO」がすごくよかったんだけど、そのときは音の少なさを気合で超えているような「よさ」で、でも今回の「虹」なんかは、全然うまく音が作ってあって驚いた。なんか、同じバンドじゃないみたいだったもん。くるりにしてはうますぎる…っていう、そういう違和感だったのかもなあ、客の戸惑いは。
でも、この構成でひるむことなく「リバー」「屏風浦」「青い空」「マーチ」なんかをやるあたり、やっぱり岸田のマインドは凶暴で、目が離せないなあと思いました。なんなんだその選曲、チャレンジャーすぎ。過渡期的な印象の武道館ではあったけど、その流れに逆らわずに粛々と「うまさ」に身を浴している感じはある意味禁欲的でもあり、これはこれでなかなかにそそるものがあった。「ミレニアム」のアタックの強いボーカルや、「かごの中のジョニー」での、去年の音博で土岐ちゃんがリードを取ったワンフレーズを、同じフレーズの他のところよりもオクターブ上で叫びがちに歌ったところ、岸田っぽいエロさがほとばしっていて実によかったです。「鎖骨」のギターソロなんてたまんなかった。佐藤くんはステージで観ると毎回異様にエロく感じるんだけど、何かの曲で武道館のステージの後ろのでかいスクリーンに、ベースを弾く指ががーんと映し出されたときには鼻血が出そうになりましたな…やあ、ベーシストの指ってなあ、なんであんなに…!!(握りこぶし)そして、女声コーラスをことごとく佐藤君ががっつりカヴァーしているのを聴いて、音源の時点からゲスト女性は不要なのでは…とちょびっと思ったりしました。「ワルツ」のあとのおととしのホールツアー、よかったんだけど、佐藤くんがコーラスしてない点がものすごく物足りなかったので、今回3ピースでがんがん歌う佐藤くんは大変にツボでむちゃくちゃ嬉しかった。1曲目、「ワンダーフォーゲル」のサビで佐藤くんの声が重なった瞬間、ばーっと鳥肌立ったもん。人の声のハーモニーなら誰の声でもいいという訳じゃないんだよなー、としみじみ。
あ、そういえば今回 WOWOW で放送する予定らしく、でかい収録カメラが何台も入っていて、何曲かではバックステージのスクリーンに投射してたんですけどね。途中、MC でピート・タウンゼントの話をしているとき、さっきウインドミルやったらメガネが飛んだ、と話したあと、「今日はたまたまメガネしてますけど、僕はメガネ男子でも草食男子ないんで」とバカっぽいことを岸田が言ってやがりまして。そしたら、「東京」やってる最中、「君がいるかな 君とうまく話せるかな」らへんでメガネが…コントみたいにずれ落ちて、巨大スクリーンに鼻メガネで歌う岸田のアップ…さらにずれて鼻の下…「でもすーごくつらくなるんだろうな」…口にかかりそう…あっ、振り落とした! と、本当にコントみたいな有様で、ああ、一番いいところなのにメガネの呪い…と笑っちゃいました。残念すぎる。ある意味、あそこがクライマックスだった気がしますライブの。WOWOW の放送でどう処理されているのか楽しみだ。フフフ…。
ダブルコールで出てきた岸田がアコギを構えて、「やりたい曲があるのでもう1曲だけ」「愛を込めて歌います」みたいなことを言ったとき、隣の席のなおちゃんのあっち側の隣席の女性が、首のところで両手をお祈りするみたいに組んで、泣きそうな表情で口をちょっと開いて、岸田を見つめているのが見えた。でも、スクリーンに大写しになってた岸田は、なんかおっさんくさいルックスになっていて、そういう時期なんだなあと思ったりもしたんですけど、どーしてどーして、どーいう訳か女子のハートを鷲掴みにする謎の威力は健在だよ、と思ったことでした。何なんでしょうねあれ。わかるような気はするんだけどさ…。しかも、そんな風に隣の隣の女子を切なくさせた岸田の言葉を、トリくんは「愛をください」と曲紹介したんだと聞き間違えたんだそうで、辻仁成…! と戦慄した。トリくんこわい。
ともあれ、宙ぶらりんな感じの不思議な雰囲気のライブではあったんだけど、わたしは充分楽しんだし、「次」が楽しみになるライブだったと思いました。そのタイミングで秋のツアーを発表するっていうのにもひどく納得。それに何より、岸田がやたら幸せそうでよかったな。「つらいことばかり」が聴けなかったのは残念ちゃ残念だけど、3ピースより、秋に鍵盤入りで聴けることを期待したいと思った。そんな感じの武道館でした。

*1:時々サポートのギターの男の子が入っていたけど、彼は音数のための「サポート」って感じで、メンバー紹介でも「カンジ」とだけ紹介され、どこの誰だかさっぱりわからずじまいでした。