スラムダンク 完全版(1)〜(24)/井上雄彦

夫の嫁婿入り道具結婚時に持ってきた漫画の山の中から、夫に内緒でちょっとずつ読み進めた。後半は止まらなくなって大変。
「出た! この台詞!」「わ、このシーンてこういう流れだったんだ!」等々、読んだこともないのに断片的に知っている台詞(「諦めたらそこで試合終了」「バスケがしたいです」など)やシーン(木暮のメガネが飛ぶシーンや三井とゴリが試合中に拳を合わせるシーンなど)が続々と出てきて、読んでも読んでも聞いたことある! って感じで、笑いながら延々読んだ。ガンダムもそうだったんだけど、本編知る前に語られているのを見聞きしすぎている感満載。
だからなのか、新鮮な気持ちで読むことはできなかった気がする…「どんなもんじゃい」的な読み方をしてしまったような。たとえば、木暮について語られる言葉を山ほど聞いていたのに、作品の中での彼の存在感はあまり発揮されていない点に驚いたりだとか。だって、彼が表に出てたシーンて2つくらいじゃない? 三井の更生絡みのシーンと、三井の代わりに試合に出て「彼もまた3年間努力してきた選手だ」みたいなことを相手の監督から言われるシーンと…そこくらいしかスポットライトが当たっていないのに、ものすごく愛情を持って木暮について語っている読者の言葉に、わたしは今までにたくさん出くわして来た気がするので、なんと…と驚いたという次第。まあ、それはたぶん、木暮がメガネで、わたしがメガネが好き=まわりにもメガネが好きな人が多い、ってだけなんだと思うんですけどもね! ええ、わかってますけどもね!
でも、木暮だけじゃなく、他の選手も皆、スポットが当たる瞬間がそれぞれちゃんとあって、誰も彼もがいとしいキャラクターとして描かれているのはすごかった。でも、だからこそ逆に、まとめて読むと、「うんうん、要するに、皆がんばってるっつうことだね!」みたいになって、主役級以外の人の読後の印象があまり強く残らなかった側面も…皆が皆、ちゃんと描かれすぎていて、誰かが突出して胸に迫った、ということはなかったなあ。毎週少しずつ読んだりしてたら、自分の琴線に触れるエピソードを持つ選手に感情移入したりして、全員順番に思い入れられたんだろう。なんだかちょっとくやしくなった。
っていうか、男性読者はたぶん、感情移入して応援視線で読んだりするのだろうけど、女性読者は感情移入と萌えのどちらのスタンスで読んでる人が多いのでしょうかなあ? 萌えも2通りあると思うんだけどね、やおい的なものと擬似恋愛的なもの。なんか、まとめて読んだら展開がぐいぐい速く進んでしまっていたので、やおい的な萌えどころがどこにあるのか、全然ぴんとこなくて、すごい人気のあったジャンルだという知識はあれど、どの組み合わせが王道なのかもまったく理解できず、あとから検索をかけて流川×花道だと知った…あーなるほど、そういうことかあ…春子ちゃんを媒介に、みたいな…なるほどなあ、感心してしまうなあ。そしてついでに、よしながふみが描いていたのが三井×木暮、羽海野チカが花形×藤真だったということも知って驚愕。花形×藤真て…しぶすぎる、と思ったけど、アレ、そうでもないの…? ああ、もうわからないよ…!!
と、あっちこっちに目が行って気が散るくらい、登場するキャラクター(相手チームの選手含め)がしっかり描かれていればこそ、試合シーンの心理面での駆け引き、絶望、成長、克服、喜び、の描写が生きるんだなあと思いました。でも、そこがすごくいいと思っただけに、やっぱり終わり方がどーしても納得ゆかなかったな…あんなに大事に描いてきたキャラクターたちを放り出してしまうのって、作者としてどーいう心理なのか想像できないもんなあ。途中まで、もともと山王戦で終わるつもりで描いてたようには絶対に読めないし、よっぽどの外的事情がないとあんな風に終わらせることはないのかなあと。こう…不自然な向きに捻じ曲げられた粘土とかを見ているみたいで、実に悲しい読後感を味わってしまいました。
ま、こんなことを今更言ってるのも意味わかんないですけどな! なんか、文句言っても続きが読める訳じゃないなら、ダラダラ引っ張られるよりもあそこで終わってよかったんだ、みたいに、自分に言い聞かせて納得してるファンが多いんだろうなあ、と思って、そこも悲しく感じた次第です。残念ですね、ホントに。
ちなみに、わたしが一番ぐっと来たのは、残念ながら流川でありました。能力があって底意地が悪い人に弱いっていうね…ホント、我ながら実に残念です。そういう意味では、仙道もすきだった。ま、結局は、「みんないい子だな!」って感じになっちゃうんですけども。
あ、あと、通して読んだら井上さんの絵が、途中でガツーンとうまくなっている瞬間があってなんだかこわかったです。突如、ほぼ今の絵になるポイントがあってびっくりした。そういう、週刊連載しながら、一瞬で飛躍する瞬間を生み出せるというのはすごいことだなあと…そういう、なだらかな坂を少しずつ上るのではなく、階段を一段ぐっと踏み上がったような変わり方、まるで花道じゃんねー、と笑ってしまったりしました。そんなところも含めて、なんでこの作品がこんなに長い間、たくさんの人に愛されているのか、ちょっとだけ分かった気がして楽しかったです。