大奥(5)/よしながふみ

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)

3巻出たくらいのタイミングで読み始めてました。最初1巻立ち読みして、病気の描写が怖くて避けていたんだけど、やはり同世代のよしながさんがここまで腰据えて描くなら読もうかなー、とよくわからない理由で読み始め、でも感想とかうまく書けずにいて。5巻にしてようやくメモれる気分になったので書きます。
この巻でようやく、1巻で提示された吉宗の時代へのつながりが見え始めて物語の構造が明確になった感じ。1巻から読んでいて、時代を遡っている意識が自分の中でなかったんですよね。それは単にわたしが日本史の前提知識がないからっていうのもあるけど、単行本派としては、新しい巻が出る度に全巻でどうなってたのかよく覚えてない、みたいな部分もあって、今回5巻を一度読んだあと、「ん?」と思ったところを4巻、3巻…と遡って逆引きで確認し、その過程で4巻、3巻…で「ん?」と思ったところを2巻、1巻…と逆引きで確認し、というのを繰り返していって、ようやく話が通った、と感じました。
要はこの物語、1巻では家継が夭折して吉宗が8代将軍になり、いろんな改革を断行する中で、何故将軍が女性なのかの経緯を調べる…というところから話が始まっていて、3代将軍家光の治世に飛んで、何故女将軍が誕生したのか、誕生したことで何が起こったのか、が時系列で語られてゆく、ということなんですな。吉宗が調べていることを読者が追体験するというような。それで、ようやく5巻で信ことのちの吉宗の少女時代が登場し、話の輪っかが繋がった。なるほどなあ、とちょっとすっきりした感じ。
吉宗が格好よすぎて、それは子供の頃からか! っていうのがよかったんですが、なんか超然としすぎて面白みに欠けるようにも感じられる。男前すぎるというか。今のところ、パーソナリティが描き出されている女将軍は8代吉宗のほかには3代家光、4代家綱、5代綱吉までですが、わたしは圧倒的に家光の複雑さや愛情のねじれ方が好きでした。多分、有功との関係性がいいということで、これは大半の読者にとって自明のことな気はしますが。だから、4巻で家光が亡くなって寂しかったし、綱吉はなんだか痛々しく、読んでてつらいので、早く次の将軍に話が移ってほしい…気もするけど、史実として6代、7代の任期は2人合わせても6〜7年なのねえ、じゃあさらっと流して吉宗の治世まで話が進むのかもなあ。
というか、1巻の吉宗の時代まで追いついても、その先も描くんでしょうか、江戸末期まで。「大奥」ってくらいだしねえ。そうなると、かつて「あさきゆめみし」で受験生が源氏物語を学んだように、この漫画で江戸時代を学ぶようになったりするのかしらね? 男女置き換えという意匠はあれど、基本的には物語が史実を的確に反映しているようだし、人間ドラマ的にも当時の価値観とかが大変よく描けていると思うので、楽しんで学べる作品になりそうな気がする。今の学生さんうらやましい。
あと、この漫画は最初ジェンダーの問題を啓発するような意図の込められた意欲作なんだと思っていたんですが、読み進めるうちに、物語としての大きさに身を委ねて楽しめてしまうため、全然そういう問題意識みたいなところに気持ちが向かないと5巻にしてようやく気付いた。これが作戦で、最後まで読んだとき、ジェンダーについて何か新しい考え方とかが気持ちに残っているんだとしたらすばらしいと思う。よしながさんはそれくらいのことは企んでそうな気がしないでもないので、なかなか楽しみです。