ULTIMATE MUZIK! FES 06

きのうの感想。ざっくりと。
会場は鶯谷東京キネマ倶楽部。実にいかがわしいムード満載、昭和の匂い充満な会場で、うっすらとした漠然たる予感に突き動かされて2階席を取っていたわたしは会場に入った瞬間に勝利を確信。入り口からの廊下の突き当たり、埃っぽいビロードのカーテンの向こうは、デコラティブな装飾を堪能できる古びたソファのボックス席やなんかがばーっと並んでいる、えっらい奇矯なバルコニー空間だった。薄暗い照明も、手すりに沿って一列だけ、席番を振って並べられた変に座高の低い…エッグチェアみたいなビロード地の椅子も、よく分からないぐるぐるした模様のふかふかしたじゅうたんも、手すりの外側にぶら下がっている申し訳程度なのにうそ臭い質感5割増な作り物の葉っぱも、まー絵に描いたようないかがわしさ。にやける。
ステージを見下ろせば、天井高く、全方向にビロードのカーテンがかかっていて、通常のステージの構造とは全然違っているのが分かる。楕円型に客席側に緩く張り出した舞台、上手には階段があって2階席近くの高さに踊り場が。あそこ、ホントに踊るための踊り場なんだろうな…とショウに使用されたのであろう、在りし日の様子を想像してみたり。ご一緒してたキクさん*1とか3104くん*2が言うのは「元映画館」っていう話だったんだけど、わたしの記憶では「元キャバレー」だったので、どっちなんだろうとぼんやり疑問に思っていたものの、入った途端に絶対キャバレーだ、とすぐに分かった。そういう舞台。恐らく、1階には出すときは席を出すのだろうけれども、その席も列に並んだ席じゃなくて、テーブル席がデフォルトなんじゃないのかなあ。きのうはすべてを取っ払ってむき出しの床になっていたけど、その床の板がぴかぴかして、多分、ダンスフロアとしても使えるのだろうことを思わせる徹底っぷりだった。
そんな空間でのライブイベント、いやあ、濃かった。つーか長かった。転換がすごく長いので待ち時間が多くてへとへと。それでもわたしは、上空から着座で見下ろしてライブを楽しんでいたから身体的にも楽だったけど、あれ、下で立ちっぱの人は相当辛かったんじゃないかと思う。転換中に1階に下りようとしたら、緩い螺旋になったふかふかのじゅうたんの階段に、若者たちがびっしり、ホームレスのように座り込んでいて、すっごく殺伐とした空気をかもし出していた。疲れてしまう気持ちもちょっと分かるなあ…という反面、向井曽我部を観に来ている人が大半でも、こんな暗い顔で、ステージが見えない場所で待たなくてもいいんじゃないか、とちょっと鼻白むくらい。もっとさ、こう、おんがくをぜんたいてきにたのしもうよ! みたいな、要らない気持ちでおばちゃんにぎにぎしてしまった。
が、しかし…えーと、確かに前2組はしんどかったかもしれない、な…各組の出順と感想は以下のとおり。長くなるので畳むぞ。

(何とかかんとか)atami raibow bridge

まず、入り口に紙で「本日出演予定だった NATSUMEN は活動停止のために出演が取りやめになりました」って…えー? その代わりに、NATSUMEN のフロントマンがビックバンド? を引き連れて出て来た…という感じだったっぽいんだけど、そのフロントマン(名前知らない)、いきなり缶ビールを手に、足元よれよれでステージに現れて、「すびっせんでじゅたー」と聞き取れないような口調で詫びていた。アレよね、こういう状況で酔った男に詫びられても、はあ? ってなるだけよね。「でも、俺の人生を賭けて頑張りますから」といってバンドを呼び込んでたんだけど、人生賭ける前に呂律を廻せ、と思った。
言うても、後から出てくるこだまさんも向井さんもステージ上に酒を持ち込んでいたし、それはいつものことだったりするし、でもそれは全然ヤじゃない訳だし。要は酒が悪いんじゃなくて、この追い込まれた状況下において、客に酒に酔った姿を晒して甘えてるのが気持ち悪かったって話。バンドメンバーと急に喧嘩したんだかなんだか知らないけど、単に酒であの状況から逃げてたんでしょ? そんな状態で、人生を賭けるとか大袈裟な言い訳しつつ、金払って観てるステージに立たれても、こっちはあんまりウェルカムな気持ちになれない。そんなことを思いながら演奏を観ていた。
演奏はほぼセッション。「鶯谷と僕」とか。コーラスの女の人が、自分はなんか、色々関係ない、みたいな顔をして足を組んでパイプ椅子に座って曲の進行をメモしているのだろう紙を見て歌っている風情がおっかしかったんだけど、その手前にもう1個置いてあるパイプ椅子に座っている男の人が口を開けていて、よく観たらその人がメインヴォーカルだったことに衝撃を受けた。メインヴォーカルが着座。新しい…・。その他には特筆すべきこともなく、20数分で演奏終了。お疲れ様でした。

SHUREN the fire

ラップ。鍵盤の女性とドラムの男性を引き連れての登場。ちょっと出たり入ったりしていたのであまり観られなかった。逆に言うとひっかかりが薄かった。MC では朴訥に、「ぼくたちは北海道から来ました」と語り、一緒に演奏している人たちの名前を「さん」「くん」付けで呼んだりしていたのが印象的。攻撃的にライムを繰り出していても礼儀は正しいのだなあとか。

こだま和文(from DUBSTATION)

バックトラックが鳴った瞬間、今までの2組とは音のレベルが違うことがはっきり分かった。何てことないビートの刻みのトラックなのに、音作り、拍の微妙なディレイやなんかがめちゃくちゃ気持ちがいい。わあ、と思っているとこだまさんがステージにふらっと出て来た。白いだぼっとしたシャツにだぼっとしたパンツ、中折れ帽。いわばおっさんが普通に歩いてきただけなのに、むんのすごい存在感*3で、わたしは思わず口に出して「格好いい…」と口走っていた。周囲に連れがいない状態でだ。
トランペットと、あとよくわからない笛みたいな楽器の音色と。マイクを使ってアジテートしたかと思えば、「繰り返される諸行無常」と口走ってみたり、何ともお茶目なオッサン、という感じ。時々、ショットグラスの透明なスピリットを舐めつつ、痛いような哀愁を感じさせる、でも感情過多ではなくてどこか醒めたペットの音を響かせていた。「ナポリタン食べたい」と旨いナポリタンの作り方をぶつぶつ呟いていたのが最高だった。魚肉ソーセージでも構わないそうですよ。
最後の、「手紙は嘘ばかり、やさしい嘘ばかり、だから手紙に書いてあることは信じちゃいけない」という語りから入った「Cool Letter」は、何だろう…ちょっと、要らないくらい沁みたなあ。トランペットでメロディを聞かせるということはインストゥルメンタルの手法な訳で、そこには言葉の必要性というものは排除されているイメージなんだけど、けど、こだまさんのペットの音は言葉みたいに聴こえるし、ペットのマウスピースに口をつける寸前までこだまさんは明確に「言葉」を発している。言葉を語るためのインストゥルメンタル…とここまで考えて、SAKEROCK のことを思い出したりもして、色々なことが勝手にわたしの頭の中で核融合を始める、そういうきっかけになるアクトだった。わたしは気持ちの悪い妄想体質なので、こういう刺激をくれる演奏に弱い。よかったス、ホント。酒が飲めたら、酔いながら聴いたら絶対気持ちがいいのになあと思いつつ、素面で存分に楽しんだ。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック

夏フェス路線の40分エレクトリック勝負。きのうちょっと書いたけど、ホントにすごくよかった。
黒いパンツ、白地のTシャツの上に黒いコットンジャケットを羽織って、ストロー素材の中折れ帽、足元は黒のジャックパーセル。そんないでたちでふわっと手を上げながらすたすたとステージに出て来た向井さんは、何か2週間前の九段で観たときよりも明らかに痩せて、髪も伸びていて随分と雰囲気がシャープでダークになっていた。ツアーつっても、ZAZEN のツアー(や今回のアコエレツアー)の日程はトライアスロンみたいなきゅうきゅうっぷりで、要は少ない交通費、滞在費で、できるだけ多くを廻ることだけを目的に組まれてる日程だと思う。そりゃあ、痩せもするよなあと思いつつ、でもそういう、最低限の移動と滞在時間だけで、後はライブライブライブライブ、というのを繰り返して、しかもハコも客も毎日毎晩違っていて、毎回その場の空気をイチから制圧しなきゃいけなくて。そんなのを何日も繰り返してたら、身体もハードだろうけど、精神状態のほうが絶対普段と違ってくる気がする。そういう、なんか普通じゃない感じが漂っていた。
ストラップをかけてエフェクターペダルを踏んでアンプのつまみをいじって、ギターを構えて、「Sentimental Girl's Violent Joke」のイントロのカッティングを刻み出した瞬間、客席が完全に無音になった。ちょっと異様な感じ。そして ♪殺人的なジョークで♪ と歌いだした途端の熱量が、わたしがこれまでに見たどのエレアコよりも高くて、しょっぱなからすっごいところに引っ張り上げられる感じになった。何というんだろうな…うたが、最初から全力で本気、みたいなこと? 別に激しい歌い方をしているってことでもないのに、様子見をしないで、いきなりトップギアに入れてる感じ。具体的に何が違う、と言えないけど、明らかに何かが違う。壮絶なくらい。ツアー中の向井はちょっと違うのだなあと、頭の後ろのほうが痺れたみたいになって、口を開けてしまいながら、いかがわしげなムードのステージの上で、歌いながら客席を睨み付けるメガネの人を見ていた。
その後も、「Crazy Days Crazy Feelin」でリズムマシンを使ったトラックに合わせて、大きなグルーブでたっぷり歌った後、サンプリングなし・指弾きでの「ロックトランスフォームド状態におけるフラッシュバック現象」で曲によっての音色と歌の落差を出したり。この曲の後半の拍を崩して歌うところがすごく好きだ。「Water Front」では敢えて早めにピークを作ってた気がする。最近観たアコエレでは、この曲をラストにやって、相当引っ張ってから、サンプラーでリフをループさせたままでステージからハケてゆく(そしてローディがアンプのボリュームを絞りにやってくる)、みたいなパターンが多かったんだけど、今回も一旦ハケた振りをして「え、4曲?!」ってなってからすぐに戻ってきて、この曲のラストを締めていた。フェイント…? 冗談が分かりにくいんだよ、向井ちゃん…。
その後は「性的少女」だっけなー、アルペジオの歌い出しから、♪村の神社の境内で〜♪ のところのジャギジャギいうリフに入ったとき、やっぱり会場の空気がびくってなって気持ちがいい。♪記憶を消して〜♪ の絶叫がちょっとすごかった、向井絶叫マニアにはたまらない感じ。「the days of nekomachi」も、♪冷凍都市からネ・コ・マ・チ・へ♪ んところ、ギターのぎゃーん! て鳴った途端に、やっぱり会場がびくってなる。あの瞬間が本当にたまらない。大音量、音の歪みは、実はすごく繊細なもので、よく考えられたものだけが気分の高揚に繋がって、へたくそな大音量とかは単に不快感しか生まないと思う。その点で向井さんはすごく上手くて、わたしは毎回面白いように、向井さんの音のダイナミクスにやられてばかりいる。
ほんで最後に「自問自答」、これは九段で聴いたのと同じ、ものすごく言葉を詰め込むようなアレンジで、結果的に切れ目なく、強くイメージを喚起させられるような言葉がぶわーっと吐き出されて、聴いているこっちがぐるぐるしてきた頃に ♪日曜の真昼間、俺は人ごみに紛れ込んでいた♪ の歌メロが突如現れて来る。非常に効果的。2階からは、1階のスタンディングのお客さんたちの全体的な様子がよく見えていたんだけど、この曲の念仏唱えてる部分は身をすくませて、向井が発する言葉に威嚇されてるみたいに突っ立っているのが、ここでメロディが現れた瞬間、あっさりと身体を揺らし始めていた。なるほどなあ。2回目に聴いて、やっとこのアレンジの面白さがしっかり見えてきた気が。
通して、アコエレはすごくプリミティブだなあと改めて思った。エレクトリックのときは普通のいわゆる「弾き語り」よりも遥かに技巧的なことをしているとは思うけれども、その技巧を操作するのもやっぱり向井さんひとりな訳で、技巧、というか、機材とかをたくさん使用すればするだけ、向井さんの恣意がそこに重なって行って、どんどん「向井」の意思としての音が重なってゆく感じ。ギターの音作りとか、チューニングとか、ループさせるサンプラのペダルを踏む瞬間とか、声の出し方とか、そういうのが全部、その場のチョイスで決まってゆくんだから、ものすごくその瞬間の「己」を晒してることになるような気がする。そういう形のプリミティブ。
その「己」を出すときのやり方が、ツアーで練れているからなのか、今回は一瞬ですごい奥まで見せちゃう感じで、だからすごくよかったし、すごく怖かった。おっかないことをする人なんだなあと、何となく、改めて思った。

曽我部恵一BAND

いーやーよかったなあ!! ああいうミニマムなバンドはどんなハコでも強いなあと強烈に実感。最初の音がどーん! と来た瞬間、全面的に楽しくなって、これまでの出演者を通して、音響的にバランスがなんかばらばらに聴こえていた(でも各組音の構成がばらばらだからそのせいかとも思ったりしていた)のが、そういうのを全部吹っ飛ばして音がまっすぐ届く、強い強い音楽なのだなあとしみじみ感じた。
「君の愛だけが僕のハートを壊す」が素晴らしくて、とにかく曽我部さんの歌が前にぐいぐい出てきて、勝手に圧倒してくれる感じ。こっちはただ脱力していると、気持ちのよいところに連れて行ってくれるので、何とも「バンドっていいわあ」みたいな、チープな思いでにやにやしていた。それくらい、勝手に楽ませてもらえる音。この楽さったらどうだ、ほかではなかなか経験したことがない。
「ハルコROCK」を終えたところで「これ、うちの娘の歌。5歳になるんだけど、俺、すっごい親バカなんだけど、彼女が3歳のときに作った曲」と解説を加えていて、曽我部さんは歌い終わった直後の荒い息のまま、えっらい上ずった声で、早い口調で、ぽんぽんぽんぽん言葉を継いで、そういう躁なテンションが観客の嬉しさを引き出す、めちゃくちゃ幸福な空間っつう感じだった。
「TELEPHONE LOVE」では、ピンスポをねだって、真っ暗にした空間の中で真っ白な光を浴びた曽我部さんが、午前3時に気になる女の子にかける電話、の話をとつとつとしていた。口笛の音も冴えまくって、あんな太っとい音が口笛で出せるのだなあとうっとり。曲が始まればひたすらウォーキングベースみたいな刻みで、じりじりテンポが上がってゆくのだけども、そのテンポの上がり方がまた、心拍数の上がり方とリンクしてる感じでえらい気持ちがいい。「適当でいいから一緒に!」と客席を煽って、最後の ♪T・E・L・E、P・H・O・N・E♪ の後、もう一度がーっと持ち上げるところ、あそこで、曲が終わっちゃうなあという寂しさを覚えたりもした。その感情、変だよね、すごいことですよ。
サックスの人が何曲か入って、バンド編成で聴くのは初めてな「LOVE SICK」がめちゃくちゃ嬉しかったり、「STARS」の入りの ♪スリーフォー♪ んところですっごくこの曲を待ってたんだっていうことを実感したり…なんか多分、わたしは「STRAWBERRY」が一番好きなんだろうなあ。色恋に絡んだ記憶がある訳じゃないアルバムで、ここまで身体に沁みついているのは珍しい。ものすごい高速で演奏された、曽我部恵一BAND版「青春狂走曲」で締めて、最後にアンコールで「シモーヌ」、だったっけ? 非常に充実したライブだった。

*1:id:tatibana880

*2:id:creamsoda750

*3:実はわたしはこだまさんが役者として舞台に立っているのを観たことがある。96年、宮沢章夫さんの遊園地再生事業団の「砂の楽園」だ。砂漠監視団シリーズの第4作で、つなぎを着たこだまさんは、トランペットと蒸留酒を手にステージ上に立っているのと同じ感じで舞台上に「ただ」立っていた。