みやこ音楽祭

色々観たのだけど、矢野顕子SAKEROCKくるりのアクトがめちゃめちゃよかったので、この3組についてだけ書いておきたい。長くなるので畳んでおく。

矢野顕子

アッコちゃんは、曲中に何度か咳払いをしたり、超速ソロがつるつる滑ったりするところもあって、コンディションがそんなによくないのかなーと思って観ていたのだけど、そこで「調子がよくない」という状態に甘んじないところが彼女の強さであり、誠実さでもあって、調子が悪くてもハイテンポで弾き抜けて、歌い切って、だからちゃんとこっちに届く、そういう演奏をしてくれた。あの笑顔で、あの声で。
何かもう、気持ちの悪いわたしは、演奏が始まって間もなくからだらだら泣いてしまっていて、「星の王子さま」で♪大切なものは目に見えない♪ってお決まりのフレーズだっつうのに、アッコちゃんの声で、メロディに乗せられただけで、死ぬほどキてしまって、ひたすら泣いていたんだけど、MC でぽろんぽろんとピアノを撫でながら、アッコちゃんが口にする岸田くんへの信頼だったりとか、京大の敷地に入って西部講堂が見えたときに「帰ってきた」と感じたという話だとか、チャットモンチーにメロメロになって CD をもらったんだよ! と子供みたいな口調で自慢をするところとか…もう、ホントに愛しくて愛しくて、アッコちゃんの放つ音が孕んだ愛情というか、そういうのにヤラれて、講堂の一番後ろのほうで、ずうっとだらだら泣いてしまっていた。
更に、最後に「みんな、また会おうね」ってあの鈴を転がすみたいな声で、首を傾げながら笑って、そうして演奏を始めた「ごはんができたよ」で、♪辛いことばかりあるなら、帰って帰っておいで♪って繰り返す叫びみたいな歌声に、しゃくりあげるくらい泣いてしまって、何かもうどうしたらいいのか、つうくらいに、気持ち悪い自分を持て余す、その居心地の悪さを上回って、アッコちゃんの音とか言葉とか笑顔とかに身を投げ出す感じで、んもういっぱい泣いてしまった。
あんまり泣けるので、自分にびっくりだったんだけど、一緒に観ていたキクさんもko-motoさんも目を赤くして、でもわたしがあんまり泣いているので、びっくりして涙引っ込んだ的なムードになっていて恥ずかしかった。ダメな中年で本当にごめんなさい。申し訳ないったらない。
多分、自覚していないところでわたしも、年齢相応に疲れているところがあって、そこをアッコちゃんが抱きしめてくれるような、そういう音をばーんとくれて、だからこそなんか…たまらなくなってしまったんだと思う。旅行中だったことだとか、前日寝ないで早朝出発して変なテンションになっていたこととか、色んな要因こそあれ、あんな風にだらだら泣いたのは「フラガール」以来だった。あ、「鉄コン筋クリート」でも泣いてたなわたし…つーかなんでこう、泣くかなあ…単純に頭がわるいのかな…? まあ、今年の泣き納めなんじゃねーかな。そんくらい泣いた。泣きすぎてへとへとになっちゃった。はは。

SAKEROCK

まさかの野外。寒いだろうと思ってはいたけど、野外ステージのトリのサケの時間には、とっぷりと日も暮れ、めちゃめちゃ冷たい風がぴゅうぴゅうと吹きすさんでいて、大丈夫なのかー? とどきどきした。でも、ハマケンちゃんがちょう頑張ってたよ! 笑いという面でも、音の面でも、すごくよかったと思う。トロンボーン、音あんまし出てなかったんだけど、それでもメリハリがあってよかったのだ。
馨くんが片桐仁みたいで格好いい! と何度も口走っていたけれども、誰にも賛同してもらえなかった。でも、カットソーとスウェット地の格好いいパンツに、ボリュームヘアをちょんまげみたいにひとつに結い上げて、スクエアなメガネで大きなウッドベースを操る姿は実に格好よかった…あの格好で弾く、うねり過ぎないのに、ここ! というところではちょう歌う、馨くんのベースはふんとにたまらん。
あ、格好といえば、ハマケンはべったり撫で付けた黒髪にちょび髭、ピタピタのTシャツの裾をカットオフしてへそを出し、これまたピタピタの黒パンツにサスペンダーをしていて、若い源ギャルの子たちは全然分かってなかったみたいだけど、母さん、出てきた瞬間に思わず「フレディ*1だ!」と大喜びしちゃったよ。しかし、「フレディのコスプレ」というよりは「フレディっぽいコスプレ」になっていて、Tシャツには「原宿」という文字が印刷されており、さらさらした素材のパンツは普通に黒ジャージだったりして、意味不明な感じがすごく素敵だった。
源ちゃん(長袖ニット)と大地くん(半袖・赤のMOTHER T)は普通のいでたちで、しかしながら、音は楽しそうでめちゃくちゃよい感じだった。考えたら、わたしはサケは一番後ろのほうからゆったり眺めるやり方でしか観たことがなかったので、前から4列目くらいのところで、大地くんの「慰安旅行」のドラミングを喰らって昇天しそうになった。この曲はトロンボーンもアタックが利いててすっごくよかったんだよねえ、たまんなかったなあ…あと、後半の…あれ何の曲だっただろう、「ちかく」だったかなあ? よく覚えてないけど、何かの曲で、割と普段淡々と弾いてる感じの源ちゃんが、あるフレーズに差し掛かると眉間に皺を寄せて、ぎゅーて顔をして弾いている箇所があって、そのフレーズが繰り返される度、その表情も繰り返されていて、サケのライブで源ちゃんを観て、そういう、気持ちが動いてる感じが見えたのって初めてだったので、おお、と思った。
源ちゃんと言えば、わたしは源ちゃん前の上手エリアが怖いから、何となく馨くん斜め前くらいの下手側に位置取って見ていたのだけど、実はここ、源ちゃんが演奏するハマケンをじっと見ている姿が、ハマケン越しに見える、という大変贅沢なスポットだった。源ちゃんの前にはマイクは設置されてなくて、客には源ちゃんのツッコミとか聴こえてないんだけども、ハマケンが細かいことをやる度に、きっちり爆笑している源ちゃんをまっすぐ正面から見られたのは実に眼福だった。あと、笑いどころ以外はすっごく真面目な、ぎっとした強い目でボーン吹き中のハマケンを背後から見ているのですね、あの人。ああいう目は初めて見たなあと思って、ちょっとどきっとした。というか、何か、源ちゃんの顔が違って見えた…痩せたのか? 精悍さすら漂って見えて、知らない人のようだなあと何となくそわそわして観ていたよ。
ハマケンは今回、客席に身を乗り出しても押し戻されることはなく、男子が率先してハマケンを引っ張って客席に送ろうとしていて、これもまたおお、と思った*2。あと、ハマケンと源ちゃんのイチャイチャトークも健在で、ミクシの星野源コミュの登録メンバー数が浜野謙太コミュの数を抜いた、と落ち込んで見せて、「そうなの?」と笑う源ちゃんにも、「うるさいな、話しかけないでよ」「俺、今すごくナーバスになってんだから」と答え、両手で目を擦りながら泣き真似、挙句の果てに、客席から「ハマケーン」という慰めの声が挙がった頃に、「星野くんが…星野くんが大好きなんだ!」と激白をしていた。げらげら。もうそれはみんな分かってるってば…!
ラストに演奏した「生活」は、ハマケンのボーンが結構ヘロヘロになっちゃっていたけども、転調するところの昂揚感はやっぱり凄まじく、実に楽しい気分のままライブが終わってすごくよかった。京都出身でもないサケが、あの面子の中で動じないというか、マイペースな感じだったのにきゅんとなったよ。ああ見えてタフだなあと嬉しくなる感じ。フレディ風のコスプレをしていながら、一言も Queen ネタに触れない投げっぱなし具合といい、実によいライブを見せてもらった。楽しかったあ*3
あ、ちなみに、観客男子が「源さーん」と声をかけ、CM を褒める野次を飛ばしたとき、ハマケンが「俺だって CM 出てるのに!」と言っているところに、源ちゃんがげらげら笑いながらハマケンのほっぺを後ろからこう…指でぶにゅってやってた。生・朝マック。そんなん、女子なら漏れなくにやけますがな。うふふ、いいもん見たー。あと、一緒に観てた人いわく、「さーやさんがハマケンを観て『ひどい…』と言っている同じときに、源ちゃんも『ひどい…』と言っていた」んだそうだ。笑った。そんくらい「ひどい」感じでよかったのです、ハマケン。

くるり

大トリ、新ドラマーお披露目、とこれを抜いても、今回のチケット争奪戦の主眼目はくるりを観たい人たちの戦いだったようだし、いい感じの混み具合で見られたボロフェスタよりも入場者数を増やすぜ、という意味にも取れる言葉を、ボロフェスタに弾き語りで出演した時点の岸田くんが口走っていたのを見ているため、どれだけきつきつな状態でくるりを観る羽目に陥るのだろう、と思っていたんだけど…全然だった。傾斜のついた床の西部講堂で、大体どこからでもちゃんとステージが観られるすごくよい状態でのライブ。シチュエイションが整いすぎて怖いな…と思ったら、その「よさ」を上回る感じで、ちゃんとしたリアリティのある、ホントにいいライブだったので、すっごく贅沢なものを見せてもらった感じの満足感が残った。
セットリストは同行の3104くんが載せているのでそちら*4を。「尼崎の魚」から始まって「東京」で終わるセットリスト、これ、考えたらわたしがライブを観出してからリリースされた曲は1曲もなく、でも、何だろうな、ちゃんと「分かる」感じがした。「マーチ」から「街」っていう流れ*5は「図鑑」色がくっきりと出ていて、リアルタイムでこの時期のライブを観てないわたしでも、色々な気持ちが胸に去来したり。つか、8年ぶりだという「Old-Fashoned」だなんて。そりゃあ初めて聴くに決まっているわな。ドラマーがお披露目、キーボードレスでの久々のライブ、っていう諸条件あってのことかもだけど、非常にプリミティブな選曲だったように思う。上手く言えないんだけど…生々しさ? みたいなのがあったなあ。
最後の「東京」の前には、「これは、京都人である僕の誇りです」と言っていた岸田くんは、本当に京都を愛しているのだろうし、けれども今は東京で暮らして、東京でご飯を食べて、曲を作ってレコーディングをして、お金を稼いでもいる訳で…何というか、アイデンティティの問題、魂とか気持ちとかの置き処と、実際の身体がいる場所、みたいな、そういうことを考えさせられたりもした。丁度、「スピリチュアルな堀江*6」という話題が出ていたこともあってね…。
岸田くんたちのように、東京に出てくるのではなく、地元に残って活動を続けている在京のバンドを盛り立てるためであろう京都のイベントで、京都でのくるりを観られることを幸福だと思う反面で、去年までは京都でしかチケットを売っていなかったローカルイベントに、東京からわしゃわしゃと押しかけて「東京」を聴いて涙ぐんだりして、そんなのってどうなのかな、と自分のやってることに疑問を持ったりもして、だけど、岸田くんの言う「誇り」の中には、「東京の街に出てきました」という形で、わたしの街=東京も含まれている、んだとわたしは思うし。ていうか、思いたいわたしがいるし。この葛藤と、初ドラマーの人のドラムが、最後の曲になってやっと、かちっとハマった感じの演奏のよさとで、この日、西部講堂で聴いた「東京」は、何とも胸が痛いような気持ちになる1曲だった。
例えば、アッコちゃんの「ごはんができたよ」は、♪楽しかったんだ今日も、嬉しかったんだ今日も、ちょっぴり泣いたけど、こんなにも元気さ♪という1コーラスめと、♪悲しかったんだ今日も、寂しかったんだ今日も、ちょっぴり笑ったけど、それが何になるのさ♪という2コーラスめが対になっているのだけど、そんな風に、子供の頃に思わなかった色んな気持ちがわたしの中にぐちゃぐちゃと混乱して団子になっていて、それを、簡単な言葉で言い表すことなんて旨くできやしないなあといつも思う。
こういう気持ちをこういうところで、こういう形で文字にして、対価の発生しない個人の趣味としてやっていることだけど、気持ちが動かされたことについて書こうとすれば結局最後は「ことーばにーできーないー」って書くしかない無力さ、みたいな。書けないならなんでこんなことしてるんだろう、って、いつも思う。書けないことを書こうとしている自分の自己顕示欲みたいなものを心底下品だなあと思うし、下品だって分かってる、とこうして書いていることで、少なくとも無自覚ではないのだと言うエクスキューズをしているようでもあり、下品のくせに賢い振りをしようとしているような、そういう下品の上塗り感にも己でがっかりする部分もあり、だから2日ほど書けずにいたんだけど、やっぱり、あの日、あの場所で聴いたくるりの演奏は、すごく切実で真面目で優しくて、それが、岸田くんの愛する「京都」に向けたものなのだとしたら、その一部ではない異物であるわたしが、あの場所にいて本当によかったのかなという後ろめたさがあるのは確かなのだけど、それでも、よそ者でも、あの瞬間、ホントにちゃんと、胸に届くものがあったのは嘘じゃないから。
…ってもう、何が何だか分からなくなって来たのだけど、とにかく、あの日のくるりはすごくよかった、ということ。どうやって言葉にしたもんか、2日寝かせた今もまだ分からないけれど、これだけはやっぱり、わたしの思いとして書いておきたくて、今こうして文字にした。東京モンが金にあかせてあの街に土足で踏み込んで、何言うてんの、ってことかもしれないし、そう思ってんのに書きたい、っていうのは単なるエゴかもしらんが、でも、ホントのホントに思ったことです。わたしは、京都の街が生んだくるりがすごく好きだし、くるりを生んだ京都の街も好きだ。そんな、単純なことだけど、書くまでにちょっと時間が要った、そんくらい、肝の据わった演奏だったように聴こえた、という話。ちゃんと書けてなかったらごめんなさい。これくらいが何か、限界です、今。

*1:マーキュリーさん。

*2:何度か、ダイブをするような素振りを見せるハマケンを、最前の子たちが押し戻す、という小ネタを見かけているので。

*3:と書きつつ、実は終わったあとにすぐに soul of どんとを観に講堂に入ってしまった。その後、アンコールがあって、「京都」をハマケンひとりでやったらしい。あらあ。

*4:http://d.hatena.ne.jp/creamsoda750/20061203#1165154102

*5:今書いて気付いたけど、この曲名、「まち」という音繋がりでかけてるんだろうか。もしかして。

*6:永らくくるりのサポートメンバーとして活躍していたキーボーディストの堀江くんが、カエラちゃんのサポートもずっとやって来ていたため、今回のくるりでは出演しなくても、カエラバンドでは…とキクさんが楽しみにしていたのだけど、結局どちらでも出演しなかった。がっかりしているキクさんに向かって、3104くんが「俺にはスピリチュアルな堀江が見えた」と口走って激怒させていたというお話。前日の soul of どんとのアクトで、「トリが霊的な存在だからね…」という話題があったので、その流れだったんだけども、この「スピリチュアルな〜」というフレーズがツボにはまってしまい、くるり後の高揚した気持ちも手伝って、寒空の中できんきんに光る満月の下、げらげらとずーっと笑っていたよ、わたしは。ごめんね、キクさん。