一緒に遭難したいひと(3)/西村しのぶ

一緒に遭難したいひと(3) (ワイドKC)

一緒に遭難したいひと(3) (ワイドKC)

3巻出た! 全然知らなかったので本屋の店頭でびっくりした。っていうか大体、この人の作品は3巻くらいでうやむやになってしまうんだよね…「RUSH」も「LINE」も「SLIP」もそんな感じで自然消滅してるし、この作品もなー、4巻が出る日はくるのだろうか。ふー。
2巻以降、どんどんマキちゃんの影が薄くなっているのが寂しい。マキちゃんは「ダメでかわいい男」が盛りだくさんの、恋って甘いお菓子! みたいな西村漫画には珍しいタイプの、堅実で安定した男性キャラクター(公務員)で、これが主人公の恋人だっていうのは割りと新機軸だわ! と思ってたらやっぱり段々と、作品世界の圏外に押しやられていっているっていうね…ひどい話ですよ。
そもそも、西村漫画は設定を多少変えてても、結果的に描いているのはいつも同じモチーフなんだよね。そしてそのモチーフではなんか、恋人がいてもデートはあくまで非日常で、日常は女同士の、こだわりいっぱいの「いい感じ」が充満したくらし…というのが共通してる気がする。その「非日常」的トキメキを伴う男性が西村漫画のメインストリームだとしたら、「日常」に寄った、過剰なトキメキをもたらさない代わりに邪魔にならないタイプの男性が一連の年下シリーズとかマキちゃんとかなんだろうけど、年下シリーズがかわいい長髪の男の子たちなのに比べて、マキちゃんは丸メガネの普通の公務員だもの。そのまともさをいとしく思ったわたしには、この邪魔者扱いは少々酷に思われるってなもんで。
よしながさんの対談集「よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり」で羽海野さんが「西村先生の漫画がすきなのは、女同士の関係性がすきだから」みたいなことを言っているところがあって、わたしも多分これだけ長いこと西村漫画を読み続けてるってことはそういうところも確かにあるんだろうと思うんだけど、でも、自分が年齢を重ねて、「女同士の関係」を持ってたような友達たちがみんな、そういう関係より大事なもの(家庭とか)に重点をスライドさせる年齢になってくると、「この人たちはいつまでこうやってふわふわしてるのか…」みたいな気持ちになっちゃうのも事実。現実的にはどこかでふわふわしてられなくなるポイントが訪れることが大半で、それを描かないでおこうと思うと多分、3巻くらいでうやむやにして終わらせちゃうしかない、ってことなんだろうなーと思った。
まあでも、この人の漫画はファンタジーとしてよくできてるので、それはそれでいいんですけどねー。でも、初期設定として「働きたいときしか働かない」「そのペースを守るためにボーイフレンドたちをたくさん作っていろいろしてもらってる」「がつがつ稼いでないけど楽しい毎日」みたいなことだったはずの2人の生活が、普通に堅実な感じにシフトしていっていて、この堅実な暮らしでどーやってそのお洋服たちを…? という矛盾がひどく浮き彫りになっているようにも思った。このへんがこの人の漫画における「堅実」の限界かなー、と、改めて。
あと、今回の後半はショーコの話だったけど、全然共感できなくて笑ってしまった。半年で別れた男がどうこう、と言っていても、半年くらいしか付き合ってないのに女の仕事をけなすような同業者、どーーー考えてもろくなもんじゃないだろうに、何をぐちゃぐちゃと引きずっているというのかと。職業婦人が、1週間も仕事から逃避するほどのこととは思えないんだよね…そのリアリティのなさに、西村漫画の矛盾を見た気がする。西村さんは私生活の状況が作品にダイレクトに投影される人だから、いまや、「ダメさ」を「かわいさ」が凌駕するような色気のある、あぶなげな男性キャラクターは描けないんだろうし、仕事でホントにギチギチのところにいる女性の気持ちもこの人にはわからんのでしょう。だからこそ面白い部分があって、そこがとにかくすきなんだけどねえ。