NANASE/山崎さやか

結婚すると夫が持っている本も読めてお徳。

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(2) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(2) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(3) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(3) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(4)<完> (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(4)<完> (ヤンマガKCスペシャル)

美しきテレパス火田七瀬が主人公の物語。山崎さやかが作画を担当しているものの、原作は筒井康隆の「七瀬ふたたび (新潮文庫)」。この小説のタイトルはよく耳にしていたので、この漫画を読み始めた途端、あれだ! ってピンと来た。小説は「家族八景」→「七瀬ふたたび」→「エディプスの恋人」と、一応「七瀬三部作」とされているようなのですが、一番有名なのって2作目な気がする。基本的に、その「七瀬ふたたび」を漫画化したのがこれでした。
通して読んだらめちゃくちゃ面白くて、この面白さがどこまで原作の力で、どこまで漫画の力なのかを知りたくなって、つい原作にまで手を出してしまった…。
家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

今最後の1冊を読み始めたところです。その結果、上のエントリみたいに自分で制御できない「こわい」の要素を1個増やしてしまった訳で、こうやってハマった物語に逆襲されるというのは子供の頃からのパターンっちゃパターンなのに、何故学習しないのか自分。と思ったりもしますが、ま、それはさておき。
面白さが原作に拠る部分もたくさんあったけど、その原作に対して、ものすごくうまく漫画化していると思って感心することしきり。何より、七瀬がホントに魅力的なのがすごい。山崎さやかが実際に女性なのかは知らないのですが(夫いわくホントに女性らしい)、七瀬もヘニーデ姫も藤子さんも、女性として、内面と矛盾がないルックスで描かれているのがとてもいい。
中でも、ヘニーデ姫がすごくよかったなあ。「性欲も人の倍だ」ていうのに爆笑してしまったんだけど、常にとっちらかった思考の、でも歪んだところのない、育ちのよい女の子。掛け値なしの友情を寄せられて七瀬が幸福を感じるあたりやその後の展開が、切なくて痛くてかなわんなあ、と…あ、そういえば、「七瀬ふたたび」がドラマ化されるのだそうで、現在撮影中らしんですが、ヘニーデ姫に柳原可奈子がキャスティングされているらしいと聞いて吹いた! なんてうまいキャスティング…! でも、あの、び、美貌はどこへ…?
ヘニーデ姫と、それから恒夫との関わり方のくだり、小説がすごくうまいんだけど、それを読みやすく漫画にしていて、いたく感心した。先に漫画を読んだので、漫画として成立している度合いがとても高いことを知ってるのですよね。漫画のクライマックスシーンでは、原作にある台詞をちゃんと喋っているのだけど、それがまったく浮いて読めなかった。小説のうまさもあるだろうし、小説で描かれているキャラクターを忠実に二次元化した漫画家の技量もあるのでしょう。
オリジナルで足したディティルもよかった。特にラスト、対抗組織の男との直接対決は漫画オリジナルで、ああやって「思考を読む力を武器として攻撃する」っていう発想は、原作の七瀬には、基本的にはなかったものだと思う。超能力者として生まれついたことで背負ってしまった業とプライド、それをより自覚的に行使してるという意味で、ここは漫画の七瀬のほうが圧倒的によかったな。
勿論、それ以外のシーンでは原作の七瀬を裏切るようなことはしてないんですよ、漫画の七瀬は。原作どおりのシーンとオリジナルで足したシーンに矛盾がないので、オリジナルのキャラクターがより活きて、最後の最後にいっそう、わー、と思わされた。とても、とてもうまいと思った。
最終巻末に、原作の1冊目、オムニバス短編集「家族八景」の中の2作をミックスした掌編が掲載されているんだけど、この仕立て方も実に見事だと思う。全般とおして読み応えあったなあ。満足ー。でも満足しすぎて「こわい」が…(以下略。
ちなみに、原作との比較で言うと、社会的な年齢の感覚が原作の時代と今とで随分違っていることを実感して面白かったです。55歳で定年とか、30歳で大学教授とか。昔のほうが大人になるのが早かったのかなあ。そのへんも、漫画ではうまくアレンジしていたので、しみじみうまいと感じた次第。