最近読んだ本

TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008 (IKKI COMICS)

TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008 (IKKI COMICS)

オモシロカッター! こないだ夫が買った「IKKI」でオノナツメ特集をやっていて、この中のお弁当話(そんなタイトルではありません)を読んで、ぽわぽわ、ほくほくしてたんだけど、その作品が直後発売の単行本(これ)にしっかり掲載されているあたり、いかに彼女が今売れているのかがわかる。…あれ彼女? でいいの? よね??
これなんて、殆どが同人誌に描いてたのを採録してるものみたいなんですが、読み応えが今と殆ど変わってないので本当にびっくりする。絵は今のほうがやっぱりうまい(それでも、昔でも充分うまいと思う)けど、物語の構成力やスタイリッシュさ、世界観は全然かわってない。もう、最初っから圧倒的にうまい。とにかく短い話がうまいんだよなあ。読み終えて、にやっとなったり嬉しくなったりあったかくなったり、何がどう、ってことはないんだけど、よい後味が残る作品が多いのもすごいと思う。
精神科医が泥酔して、病気の息子が待つ家に帰る話なんかは、最後まで切ないし救いになるようなことはなにも起こらないのに、読み終わってつらくなるのではなく、ほんのりと、いとしさみたいな気持ちが残った。老夫婦の仲良しさを描いた「もやし夫婦」も嬉しくなる読後感。どの作品を読んでも、人間の悪意を殊更に強調せず、だからって善良すぎる描き方もせずに、普通のひとの人生とか生活とかを、大事に大事に描いている感じがするのが好きだなあ。
それにしても、量産しても全然水準にムラが出てないのもすごいことです。basso 名義のものも含めて。今後も楽しみ。
※ 「もやし夫婦」が試し読みできますよ。→ 【オノナツメ特集】-月刊 IKKI 公式サイト-
人生ベストテン (講談社文庫)

人生ベストテン (講談社文庫)

本を持たずに外出してしまったとき、時間を潰す必要が出て買ったもの。予想よりか面白かった。前に角田光代読んだとき、あまりにも「あるある」っぽくて印象に残らないなーと思っていたんだけど、それは今回も同様といえば同様。でも、文庫巻末についてるイッセー尾形の解説が実によかったので、それまでをまとめて読んだことで、この1冊の意義がふわっと浮き上がって見えた気がした、かな。
川上弘美を(後学のために)何冊か読んだときにも思ったことなのだけど、売れている現代女流作家はどうにも読み手の「あるある」「わかるわかる」に寄りかかっている人が多いなあと思う。それは一種の「うまさ」なので文句を言ういわれはないし、むしろ、「あるある」だけで第一線に立ち続けるというのは超人的なまでの「あるある」への探究心や、それを作品に落とし込む力量がないと無理だと思うので、すごい、とは思う。でも、読んでて楽しくはならないことが多い。殊に、30〜40代女性の「あるある」を描いたものには心躍らないことが多い傾向を自分で認めている。
これはもしかすると、「そんくらいのこと、わざわざ小説にして書かなくてもわたしは知ってるってば」って思ってしまって萎える、ということなのかもしれない。この1冊においても、「ああ、はいはい、そういうのあるね、はいはい」みたいな、覚えがありすぎて古ぼけて感じるような感情や感傷を上手に切り取ってパッケージングした、というような印象が大部分を占めていたように思う。この手の「中年女性もの」については、あらゆる「あるある」に対して、陳腐だな、という感想のほうが、「どうしてこの作家はわたしの気持ちをわかっているのでしょうか!」っていう気持ちよりも勝ってしまうのだった。この点、自分の中で思春期と中年期の大きな違いとなって実感されたりするのよね。思春期の頃には「これはわたしの物語だ!」って衝撃を受けるような作品との出会いがいくつもあったから。
でも、このひとはなんというか、きっと、他人のことが気になってしょうがないタイプなんでしょうねー。さっき電車で前に立っていたひと、ゆうべスーパーで会計をしてくれたレジのひと、今朝入れ違いにごみを捨てに同じ建物から出てきたひと…そういうひとたちそれぞれに生活があって仕事があって宝物があって、人生があって、っていう、それを想像せずにいられないタイプの作家なんだろうなあと思う。普通にしてたら出会わない他人と、思わず袖触れ合ってしまった話ばっかりだもんね。
でも、その "他人" に対する関心の種類が、恋人や家族といった身近なひとに対するものとさして違っていないように見える、そのバランス感はとても不思議。殊にわたくし、結婚なんつう最大の "差別" をこないだ選択したところだったので、身近なひとをこう、淡々と扱えるものか? という違和感はちょっとあった。そうありたい、そうあったら楽なのに、みたいなことなのかなー。んー。
あ、そういえば表題作が「Around 40」とゆー、今やっている大変に都合のよい展開を見せるドラマの第一話と多少似ていて面白かった。40歳、独身勤労女性、同窓会、っていう設定が同じ。主人公のキャリア観(感)が全然違うので、行動原理や展開は違うんだけど、周囲のリアクションとかには近いものがあって、それをこの小説のように一人称で描くと、途端に読んでてつらくなるものだなあ、とも思ったりした。
元アイドル! (新潮文庫)

元アイドル! (新潮文庫)

面白かったーっ!! 割とマイナー感のある人選だなーと思っていたら、あとがきを読んでびっくり、単行本のときにはもっとビッグネームのひとの分も入ってたんですね。外されたメンツを見て、いろんな大人の事情があるらしい…ということだけは理解できた。
でも、マイナーなアイドルのほうがいろいろひどい目に遭ってるようだ、ってことは読んでてヒシヒシと。お母さんがファンの子の車にはねられたり(娘を追いかけている車を止めようとして)、電車で跪かれたり隣に座られたり、握手会のときにさっきまでズボンの中に入れていた、白濁した液体のついた手を握らされたり。それだけならまだしも、昔のアイドルの事務所ってひどかったんだねえ。漫画みたいな話がいろいろとあって、ひっどい条件で働かされたり、マネージャーも同行しない海外ロケに向かったら現地でいきなり脱げと言われたり。中には、「マネージャが別のアイドルオタクだった」とか「デビュー後最初に仲良くなった同業の子がレズビアンだった」とかも。濃ゆ!
でも、子供の頃の記憶を手繰れば、聖子ちゃんの破局会見 → あっという間に別の人と結婚 → 愛人にした白人男性に性生活を暴露される → 離婚 → 子、普通にデビュー → 本人一週廻って高く再評価を得る…とか、今じゃありえない話だよなあと思う。明菜ちゃんだって、マッチ先生のマンションで手首切って自殺未遂とかしてたもんなあ。「アイドル」とゆー人種の「別世界のひと」度合いや、傍目に映る人生の濃ゆさが今とは段違いだったなと思う。そのへんの名残を残した時期(ひとによってはど真ん中通ってるひとも)の「元アイドル」の話が多いので、そりゃあ読み応えあるに決まってるなあっていう。
通して読むと、精神のバランス崩しちゃったひととか、崩しかけたひととかの話が多いんですが、これだけ濃ゆければしょうがないことだなあと思った…けど、その崩す度合いが半端ではないので、ふつうに社会生活送ってる20〜30代の周囲の女性たちが多少コンディション崩してる状態とかとは比べ物にならないなあとも。よくサヴァイヴしたねえ、笑える話になってよかったねえ、みたいな気持ちになってしまったんだけど、それというのも、吉田豪さんが、好きなアイドルが自殺してしまったっていう経験を2度味わったことで生まれた企画、ってことらしい。深く納得すると同時に漢だなあ、って思いました。うう、格好いいぜ吉田さん。