チルドレン/伊坂幸太郎

チルドレン

チルドレン

で、「ゴールデンスランバー」の感想を夫に喋ったら、「じゃあコレ読む?」と貸してくれたこっちも続けて読んだ。
こっちは随分読みやすかった、のはきっと、何かを断罪したりとか、何かを啓発したりしていないからだったのかも。主人公? の陣内を、彼を取り巻く4人の視点で描いた5編(1人だけ2編被ってる人がいるので)の連作で、陣内のキャラクターが伊坂さんぽい、破天荒ででたらめで身勝手で乱暴で、でも彼なりの「正義」をはっきりと持った男として描かれているなあと思った。そうなんです、わたしなりに伊坂さんの作品の傾向を言葉にしようとしたとき、出てきたのは「正義」という言葉でした。
一般的な意味での正義ではなく、その人がどうしても譲れない一線、というような、人それぞれ違う価値観においての「正義」。それを正義だと思うのは本人だけだ、と本人がわかっているがゆえに、その正義を守るために、伊坂作品の登場人物たちは時として犯罪になりうる手段を平気でとったりもする*1。どちらかというと、物語の視点を有しているのはこういった、オリジナルの「正義」で行動する人物本人ではなく、彼の周囲の人々だ。そして、語り部からその人物への一風変わった、呆れ混じりの信頼が描かれる。そういう感じ。
そういう意味では、陣内は本当によく描けていて素敵だ。読んだら誰だって憎めなくなる。ちょっと好きになる。でも、あんまり生身っぽく感じられない…と思うわたしは、多分、あんまり伊坂さんとの相性がよくないんだろうなあ。こういう種類の「飄々」はとてもフィクショナルに感じてしまうので。勿論、よくできたフィクションに罪はないから、これはこれでいいんだと思うけど、ただ、もっと切実な物語のほうがわたしはすきだ、ということなんだと思う。
でも、この作品みたいに、そのキャラクターを使って人と人とのつながりを描いたりするのはすごく感じがいいものだと思うんだよなあ。今回は、一度も嫌な気持ちにならなかったし、くすくす笑ってしまうような読後感でした。何より、連作で5作目まで持ち越された謎が「陣内が父親への憎しみをどうやって吹っ切ったか」というもので、その方法がどうかと思うくらいかわいらしい、見ようによってはいたずらみたいな方法だったというのがいい。こういう、ちょっとふざけた感じ、人の愛嬌に依った物語は、伊坂さんの持ち味としてはすごく気持ちがいいほうの傾向だと思った。
でも、ビートルズってのは正直どうなのかな…若い子が読んだら新鮮だったりするのか? そーいう、変なこだわりがちょっとうるさく感じることがあって、そのへんもわたしと伊坂作品との相性の悪さの一端を担ってる感じがある。伊坂さんてわたしの1歳上らしいのに、なんというか、趣味がどーにも団塊世代っぽいんですよね。過剰なまでスタイルにこだわっている部分も、その「スタイル」がちょっとオールドファッションドというか。そのへんがいつも、どーにも疑問に思われます。うーん、謎だ。

*1:そして、わたしは伊坂作品のここが一番苦手なんだと思う。「アヒルと鴨のコインロッカー」を映画で観たときにも、とにかくドルジがペット殺しの男を野ざらしにして殺そうとしたのか? それってありなのか? っていうのがひっかかって全然物語のスタイル全体に納得できなかったし、「重力ピエロ」も同じ理由で納得も同意もできないままだった。伊坂さんの作品を読んだ後はなんだか、そういうひっかかりが残りやすい。