BEATITUDE(1)/やまだないと

ビアティチュード BEATITUDE(1) (モーニング KC)

ビアティチュード BEATITUDE(1) (モーニング KC)

ところで、このタイトルはムーンライダーズからですかねやっぱり? 飲み屋の流しのシンガーが鈴木慶一翁によく似て見えるのだけれども。
ときわ荘の物語、ということながら、読んでみたらそんなにまんが道っぽくなかった。藤子不二雄は実はひとりで、本名はナイトーさん(やまだないと自身を投影するときに使っている(とわたしは捉えている)男性キャラクター)(「西荻夫婦」が印象深いよね)だってことになってるしなあ。群像劇というよりも、やっぱり主人公・花森(石森章太郎がモデルってことでいいのかしら?)に寄って描かれている印象があって、彼と密に関わってくる人物の精彩が突出しているように感じた。
中でも、クボヅカフジヲ(赤塚不二夫がモデル?)がやまだないとの真骨頂という感じ。こういうファム・ファタルっぽいキャラクター(クボヅカは男ですが)が本当にうまい。殴られたり、尽くしたりが似合う被虐キャラで、性的な匂いがものすごく漂っている存在感が…エロいというかなんというかねえ。また、クボヅカが花森に思いを寄せているように見える、うっすらとしたホモ臭がちょうどよい塩梅なんですよねえ。これくらいが断然エロいよね…!(握)
あと、自分のことを「僕」って呼ぶ美少女、水島サン(水野英子がモデル!)もとても魅力的。彼女も、やまだないとの手癖キャラっぽいかなー、男ばかりのときわ荘で、余計なことは言わないで息をつめている感じといい、東京をひっそりと謳歌している感じといい、ショートカットでフェミニストっぽい物言いをしても、少女らしい潔さと慎み深さを感じさせてすごくいい。やまだないとの漫画って、なんだか女の子のほうが何を考えているか分からない感じに描かれていることが多くて、男の子に投影して描いてるのかなーと思うことがあるけど、この水島サンはその「異星人」ぽさのある「女の子」の中でもかなり質のいい女の子として描けている感じがする。充分、女の子としてかわいらしいよねえ。たまらんです。
この漫画の感想など、ざっとネットで見ている限り、モデルになってる人物との比較で捉える人が多いようですが、そういう意味でわたしが反応したのは、テヅカ先生のサインが先ちゃん(江口寿史)のもので噴いた! とかそういう、地味なところくらい。漫画を体系立てて読んでいる人なら、当時のときわ荘の梁山泊っぷりや、そこにいた名だたる漫画家たち自身に思い入れを持って読むことになるのかもしれないけど、わたしはそれより、どっちかというとやまだないとの物語世界のほうに思い入れがあるのか? クボヅカの「母」の気持ち悪さとか、そういう、史実?に対して加えられた「肉付け」のところが生々しくてかなりよかったです。
芸術家同士の友情と愛情ってことでは、今後「持てる者」と「持たざる者」の葛藤とゆー、わたしの好みのモチーフ*1も出てくるだろう。その中で、クボヅカがたくさん苦しむことになるんだろう。ゆるい空気が流れるときわ荘で、水面下のひりひりしたところをクボヅカが全部背負ってゆくんだろう。それが、ものすごく楽しみです。

*1:これがあるのでハチクロを愛している。