女のはしょり道/伊藤理佐

女のはしょり道 (KCピース)

女のはしょり道 (KCピース)

迷った末に買って読んだ。そして VOCE 連載をまとめたものだということにまず驚く。なんというか…昔・安野モヨコで今・伊藤理佐、って VOCE の不況対策すげえ、とか、そういう驚きでした。言われてみれば装丁が、ちょっと女子力強い…感じ…?(そうか?)
内容は、伊藤さんとはほぼ同年代(伊藤さんのが2つ上くらい)(でもこの連載始めた頃が丁度今のわたしくらいの年齢)なこともあって面白く読んだ。多分ここに書いてあることの大半は30代後半以降のほうが実感持って楽しめることだろうな…と思いつつ。
若い子にはぴんと来ないこと多そうなんだよなー、ツメぬらなくったって若い子は指先きれいだもんねー、指先がっさがさになってたりしないし、髪だって若い頃は清潔にしてればそれだけでふわふわ、さらさらしてる*1もんね…っていう。白髪の話なんて絶対、似た思いをしてる人じゃないとわかんない。優越感っていうんでもないけど、あーっ、てなることがホント多くて面白かった。
わたしも、ある時期(多分32、3歳頃)過ぎたら生え際とかに白髪がばーっと出るようになって、いちいち抜いてたんだけど、最近は諦めてます、抜くと短くぴょこんと飛び出して余計目立つので。今はちょっとなんか疲れたりしてるだけで、抜いちゃえば白髪がない、髪がつやつやしてた頃の自分に戻れるのでは…という期待みたいなのを捨てて、白髪頭の自分を受け入れられるようになったと言ってもいい。これは、今の自分は、一度ついた肉はほぼ確実に落ちないと思え、っていうのを受け入れた経緯とちょっと似ているんですけども。
更に、白髪が出始めてちょっとした頃、体毛にも白い毛が混じるようになって、自分の「老い」をガツーンと自覚し、かなりショックを受けた時期があった。その頃読んだ雁須磨子の漫画に、男性が浮気相手に陰毛の中の白髪を見つけられて、恋人に(浮気相手のことは伏せて)白髪の話をすると、恋人は「わたしの探したりしないでよ」と言う話があって、ラストは、男性はこの先、恋人の白髪が増える頃までずっと彼女と一緒にいるんだろうことを感じる…っていうような話だった。わたしは、ああ、そうなんだよなあ、って強く思った記憶がある。なんというか、軽く絶望した気がする。
そのとき感じたことを言葉にするんであれば、こんな白髪頭になって、生き物としてわたしはもう古びてしまったんだなあ、というような感じ。こんな頭で着飾ったってむしろみっともないなあ、と思ったし、その時点でひとりだったので、今後もひとりでいることを覚悟しないといけないなあ、って思った。このとき、わたしは何かを諦めたんだと思う。自分がもう若くないことを、いやいやながらも受け入れて、自分のことを女子みたいに考えたりするのをやめなきゃいけない、って思った。
…すみません、本当にうっとおしいこと書いてますけど。でも、このときに感じた決意みたいなのはなかなか本気で、悲壮だった、と今振り返って思う。結果的には、ここでいろいろ放棄した、と感じたあとに知り合った青年と結婚することになったので、あの決意はなんだったのかとゆー話なんですが、でもこういう幸運に恵まれるなんてあのときは思わなかったし、可能性を思うだけでも「ありえない」度合いがセットでついてきて悲しくなるから、考えたくない…という感じだった。白髪がきっかけで、本気で、自分を愛してくれるひとなんてこの先もう現れないだろう、とはっきり覚悟した。そのときの真っ暗い気持ちを、この伊藤さんの白髪の話を読んで思い出してしまったとゆー話なんでした。
ツメもさー、結婚式のときにカルジェル塗ってもらったんだけど、「(結婚式なのに)伸ばしてないんですか?」と美容院の人が困ってて、そんなの事前にひとことも言ってくれなかったじゃん! とショックを受けたことを、伊藤さんの漫画読んで思い出しましたよ。だって式の前の週末にハンバーグ作ったんだもん…ツメ伸ばしてると指との間にどーしたって汚れが入る訳で、その状態でひき肉捏ねたら…怖いじゃん…。ツメ普段から塗ってる人からしたら伸ばしてるのが当たり前かもしんないけど、塗る段(式前日)になって、「この長さだとジェルがいけるかどうか…」とか困惑されても困るよ! って悲しくなったことを思い出しました。うう。
あと、下着は組み合わせやくたびれ具合なんかを考えたりするのが面倒だから、かわいい色のふわふわしたやつはあるとき全部封印して、以降黒で統一している、というのも面白かった。これも「下着は自分へのご褒美!」みたいな女子理論を捨て去るタイミングを経た後の境地、という感じ。わたしも乳を寄せたり上げたりしない、だらんとした下着を好むようになったタイミングがあったな…同世代のお友達がキレイな下着を買った! てテンション高いの見て、「洗うの大変じゃん」とか言ったりしてたもんね…ふう。
そんな感じで、身につまされることが多い一冊でした。でもいいの、30代後半にもなって自分のことを「女子」「女子」言って第一線にいるつもりになっている気恥ずかしさより、いろんなものを放棄したあとの中年ならではの気楽さを、わたしは愛したいと思うので。女を捨てている、と言われても構わない、健康で、清潔であることのほうが重要だと今は思っているのです。若い子みたいに身だしなみに時間かけらんないっていうのもあるしね、中年の新婚は忙しいんだよ!(本当)
あ、それで思い出したけど、伊藤さんの結婚後に出した漫画(女の窓の2巻では本編できっちり話題にしていたけど、ピータンの11巻とこれ)では、あとがきにだんなさん(吉田戦車)が出ているな…と気づいてにやーっとなりました。30代後半、周囲の誰しもが「もう結婚する気ないんだと思ってた…!」っていう頃になってからの結婚、というのも他人事ではないので。無邪気に惚気にくいけど、惚気たりしない! というほどに自制する意味ももう感じないお年頃。そんな感じがリアルで楽しかったです。ええ。

*1:年齢と共に髪も衰えて来ますホントに。若い子は自分の健康な髪を大事にしたほうがいい…って初老の女性が女子高生に言う話が昔松苗あけみの「純情クレイジーフルーツ」にあって、髪質だけは自慢だった高校生のわたしには理解ができなかった。そういうもんですよね。