十皿の料理 コート・ドール/斉須政雄

十皿の料理―コート・ドール (御馳走読本)

十皿の料理―コート・ドール (御馳走読本)

たいへんに楽しく読んだ! 10年以上前に、吉野朔実さんの「お父さんは時代小説が大好き―吉野朔実劇場」で取り上げていたのを見て、読みたくて本屋を探したんだけど見当たらず、「調理場という戦場 ほぼ日ブックス」のほうを買って読んでいたんですが、ふとこないだ思い立って、杉並の図書館の検索をしたらあった。ので借りた。便利な世の中になったね!(にこにこ)
ホントに楽しく読めた…ツテも殆どない状態でフランスに飛んで、30分しか眠れないような忙しい下積みの日々を送り、信頼できる料理人をパートナーに二人で店を開き、と、一見順風満帆な来歴の中、それでもずっと、いつか帰る、ぼくは日本に帰る、と思い続けていた斉須さん。彼が帰国して開いたコート・ドールの看板メニュー十皿について、彼がフランスでの時間を、日本でどんな風に料理に転嫁したのかの由来を説明し、その調理法も紹介する、っていう趣向。
わたしが読んだ「調理場という戦場」は斉須さんのフランス時代の修行の細かいことがたくさん書いてあって、それはそれで楽しかったんだけど、やっぱり料理そのものについて描かれているこっちは、ごはん本好きとしてワクワクさせられるものだった。吉野さんがこの本を取り上げた漫画で「しそのスープ」って名前だけ出していたんだけど、こんなスープだったんだなあ、意外。
というか、楽しく読みはしたんだけど、やっぱり斉須さんの料理を食べてみたことがない人にとっては絵に描いた餅以外のなにものでもない、というのを確認した感もある。料理に関する記述部分が面白ければ面白いだけ、このむなしさは増幅した気が。ネットで素人さんの感想とかたくさん読める今だからこそ、コート・ドールの位置づけが「お父さんは〜」を読んでいた頃よりもはっきりわかって、その魅力を「ことば」で知れば知るほど、実際に体験してみたいという気持ちがいっそう強くなりました。一度行ってみたいなあ、コート・ドール。そういや、ミシュラン日本版になぜコート・ドールが掲載されていないのか? っていう話題で最近何度か名前を見かけていたけども。
あと、吉野さんも描いてらしたが、この本の文体がすごくいい。聞き書きしたライターの人がすばらしい仕事をしていると思う。斉須さんの人柄が出て、テンポのいい語り口がとても魅力的。勿論、斉須さんの話にしっかりとした幹があってのことなんだろうけど、文字に落とすときのあれこれがきちんと全部、斉須さんの言おうとしていることを読者に、読みやすく届ける目的で絶妙に調整されていて、書き起こし作業にも太い幹がしっかり通っている感じ。要するにぶれがない。
こういう本にしたい、というきちんとしたイメージに基づいてつくられている、丁寧な本でした、二重にも三重にも。楽しかった。