娚の一生(1)/西炯子

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

「GENTE」と続けて感想書くと、おまえどんだけジジイ好きか、と言われそうだけれども、そういうことでもない…訳でもないか??初老の老眼鏡紳士、ってとこも被ってるっちゃ被ってるしな…。
主人公は有名電機メーカに勤務する30歳独身のつぐみ。溜まった有給を消化するために田舎にひとりで暮らす祖母の元に滞在するも、その間に祖母が亡くなってしまう。つぐみはなぜか、生前の祖母から屋敷の鍵を渡されていたため、有給も残っているし、と祖母の死後も田舎にしばらく留まることにするが、そこに屋敷の「離れ」の鍵を祖母から預かっていた、と言う男、海江田が現れ、自分も「離れ」に滞在すると言い出す。51歳と30歳の奇妙な同居生活が始まり…と、そういう話。
西さんは「JUNE」に初めて掲載された作品をリアルタイムに読んでいた気がする。いや、初めてではなかったかなあ、よく覚えていませんが、投稿作品を竹宮恵子が選考、優秀作品が掲載されるというコーナーで、ほぼ毎号掲載され続ける常連、ていう感じで目にしたのが初めての出会いだった。
その後商業誌(って変ないいかた)(JUNE も商業誌です)でデビューして、普通に高水準の読み切り描くようになって、最初は読んでたけど、「三番町萩原屋の美人 【コミックセット】」くらいで興味が離れて永らく読んでなかった。わたし自身、あんまり漫画読まなくなってた時期だったっていうのもあったんだと思う。それが、「Stay―ああ今年の夏も何もなかったわ (プチフラワービッグコミックス)」のシリーズを何の気なしに手にとってみたらすごくよくって、以降、新刊出ると買って読んで売って、というような流れで今に至っている。読みたいけど、手元に置いておくほどではない、っていうくらいの距離感を保っていた感じです。
が、今回はちょっと…多分、これはわたし売らないで手元に置いておくな…という、そういう気持ちに久々になったのは、やっぱり海江田パワーなのかなあ、心底シャクですけども! だってみんな、こういう嫌な男が好きなんでしょ? という海江田(と西さんの)のミエミエのドSっぷりがいやあな感じ、なのに、なんだかんだいって本当にこういうの好きなんですごめんなさい、みたいな部分もあって、なんだかもうやりきれない。ぎーっつって、机をだんだんこぶしで叩きたい気分。
つぐみがこれまでに、妻子もちとややこしい恋愛ばっかりしているらしく、仕事ではものすごい優秀(というか、ものすごいがんばってものすごい優秀だと評価されるところまで到達している)な人なんだということが描かれていて、恵まれているところと欠けているところのバランスが結構しっかり提示されている印象。だから、その「欠けているところ」に対して、海江田の「嫌なところ」がすっぽりはまり込んでゆくのがリアルに感じられて、つぐみが海江田にムカつきながらも惹かれてゆく感じ、すんごくよくわかる、けどつくづくムカつく、と読んでて大変にハアハアさせられる漫画であることだよ、と思いました。
つぐみが、世間で言う「負け犬」なところだけ取れば、ちょっと前まで「負け犬」要件満喫していたわたしがつぐみに同調するのは簡単なのかもしれないけど、つぐみは西さんの描く主人公格の女性の特徴である、賢さと諧謔と諦めを持っているキャラクターなうえ、優秀さや美貌もあって、あんまり感情移入はできないなあと思う。むしろ、友達にいそうなタイプって感じで読んでいた気がします。賢いのになんでそんな男に…でも他のところはみんな好きだから幸せになってほしいのに…みたいな。だから、自分を投影するよりよっぽどイーッってなるのかもしれん。うう、なんてよくできているのでしょうかっ。
で、海江田なんですが、昔の恩師(つぐみの祖母)を想い続けて51まで独身、哲学科の教授、根性曲がっているのに外面はよく、人の気持ちを揺するのが巧くて痩身長身、美貌で老眼鏡着用…とある角度で見ればパーフェクトな上に、ちょっと西のほうの訛りがあるっつーのがまたずるいと思う訳ですよ! よ! あれどこの訛りなのかなあ、まさか…京都弁? ギャーもう、勘弁してお願いだから!!…と嬉々として耳をふさぐ感じです。ああ、面倒くせえ…でも楽しいから困るよね!(きゃっきゃっ)
ともあれ、この漫画は海江田につきるので、西さんの「うまさ」が集約された、海江田のたまらん感じが理解できない人にとってはなんとゆーこともない漫画なんだろうなーと思います。でも、こういうのが好きな人は絶対楽しいと思った。ええ、わたしは続刊むちゃくちゃ楽しみにしてますよ悔しいけど!