雨無村役場産業課兼観光係(1)/岩本ナオ

雨無村役場産業課兼観光係 1 (フラワーコミックス)

雨無村役場産業課兼観光係 1 (フラワーコミックス)

ずっと気になっていた岩本ナオ、近所の古本屋で100円で売ってたので買って読んだ! 面白かったー!
東京の大学を卒業後、村役所に就職するために地元雨無村に戻った主人公、銀一郎のお話。Uターン就職のせいで学生時代の彼女に振られてしまった銀一郎は、地元には同世代の若者が自分以外には2人、同じ年(だったかな?)のメグと、年下のスミオしかいないことを知って驚く。村に1軒きりのコンビニは棚もスカスカ、なのにレジのバイトのスミオの顔目当てのおばちゃんたちで賑わう始末。傷心の銀ちゃんの世話を何かにつけて焼いてくれるメグはさっぱりした性格で、やさしさや気配りを押し付けない、賢い女性に成長していた。次第にメグに惹かれ始める銀一郎だが、ほどなく、メグはどうやらスミオのことが好きらしいとも気付く。徐々に村役場の仕事になじんでゆく中、銀一郎は村おこしの計画を思いつき…というようなお話。
やー、なんかもう本当にいい作品で、どこから褒めていいのかわかんないくらいよかったなー。出てくる子がみんないい子でおばちゃん胸がきゅんとしてたまんなかったです。ヒロインにあたるんだろうメグが、分かりやすくぽっちゃりしていて、だけどぽっちゃりしている女の子特有のかわいらしさを持っている感じもすごくいいし、性格も、照れ屋でリアリストで、田舎のルールをちゃんと把握してまっとうに暮らしているたくましさと賢さがあって、いい子だなああああ、とこぶし握る感じで嬉しくなっちゃった。すきだーこの子。
銀一郎だって、お祭りのときに村の農家んちの娘たちが父親の文句言ってるのを聞いて、「ちょっと待て、おじさん、お前の学費払うためにあんなにがんばってるのに」ともどかしく感じたり、高校生と道ですれ違っても自然に挨拶をしてくれる雨無村のよさを正しく理解していたり、実に賢くていい子に描かれてる。メグへの気持ちを自覚してゆく感じもまっすぐで、例えば「近くに若い女の子が少ないから目が眩んでいるのでは」とか「メグなんてデブなのに」とか、そういう漫画的な自己感情の否定がなく、自分の感じた気持ちに正直に、すっと好意を受け入れて、自覚してゆくのがとても好ましかったです。結婚を控えた元彼女と再会するシーンもすごくよかったな、自分の邪悪さを心配していたはずなのに、顔を見たらそういうのが全部吹っ飛んで心底祝福してしまう人のよさ。たまらん。
この2人の「よさ」はなんというか、世の中の苦労(かなり社会的な種類の)を知っているけど、へこんだりせずにまっすぐ立っている若者たち、という感じの「よさ」だと思う。言ってみれば、わたしのような中年から見たときの「頼もしさ」のようなもの、かな? これが果たして、社会的な大変さとかにさほど関心がないようなぽわわんとした少女、にも伝わる「よさ」なのか、ちょっと分からない。ので、少女漫画らしくないなーという感じがします。でもそこがいいんだな! 少女漫画ならではの「よさ」もわたしは好きですが、少なくともこの作品を「いいなあ」と思うのは、少女漫画としての「よさ」に対してではない気が。これはなかなかに貴重な存在感という感じです。
そんなわたしなので、正直スミオのよさがわからない…。「町でうわさの〜」のタケルくんと同じタイプのキャラクターっぽいけど、圧倒的にスミオのほうがダメな子って感じで可哀想。このあといいところ出てくるのかしら? だとしたら楽しみだけども、作品内のモテ役があんまりいいと思えないという点以外は、文句のない作品でした。
なんかね、全体的に、そんなにものすごく絵がうまい訳ではないような気もするんだけど、作品に必要となる情報は全部ちゃんと描けているし、トーンも安定しているので、全然支障がないのが面白かったです。独特の絵柄といえば聞こえはいいけど、うまくないと思うんだよねえ、絵そのものはホントに! でも、メグの「そんなにものすごくかわいいわけではない」感じがちゃんと出てたりするところ、別の意味で「うまい」って思う。決め絵がうまいのって、確かに作品の魅力にもなりえるけれども、こういうのを読むと、絵のうまさだけがすべてじゃないんだなーと思わされる、そういう渋さも併せてとてもいい作品だと思います。続きが楽しみ、だけど、なかなか2巻出ないんだろうね、掲載誌が4ヶ月に1回刊行だから…。しょうがない。