ちはやふる(1)〜(4)/末次由紀

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (2) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (2) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (3) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (3) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (4) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (4) (Be・Loveコミックス)

去年の漫画ランキングムックで話題に上がっていたのを見て、読みたいなー、買おうかなー、でも3巻まで出てるから買いづらいなー、と思っている間に時が過ぎていた。この間、夫と2人で調子に乗って漫画をバカ買いしたときに2巻までを購入、読んだらむぬすごく面白く、2日後に3巻と、悩んでる間に出ていた4巻も買ってしまった。
ちなみに、百人一首から10首暗記せよ、と冬休みの宿題を課された小学生の頃、わたしが一番好きだったのも「ちはやふる」ですた。父が冗談で、「チハヤという女が失恋して身投げする歌だよ」と言ったのも懐かしい。
美貌の姉の影で「何のとりえもない」自分を自覚している千早が、小学生のとき、同じクラス転校してきた新(あらた)の影響で目覚めた、競技かるたの面白さと、自分の持っているかるたへの適性を追求してゆく物語。
小学校では、かるたとの出会いと、「何もない」自分が見つけた「とりえ」であるかるたに一心に打ち込むようになる千早が描かれる。優等生の太一も巻き込み、新と3人でかるたに熱中する千早。しかし卒業後、太一は遠方の私立に進学し、新はかるたの永世名人で新にかるたの手ほどきをした祖父が倒れたため、介護のために一家で田舎に戻ることに。離れ離れになっても、3人はかるたで繋がっている。そう信じる千早は、3人の絆を守るためにかるたを続けることを決意する。
時間は流れ、千早は高校へ入学。夢であるクイーン=女流名人を目指し、かつて新が言った「競技かるたをやっているのは日本だけ」「だからかるたで日本一になったら世界一だ」という言葉を胸に、千早は高校でかるた部の創立を目指して孤軍奮闘する。そういう話。
やっぱり、とにかく「競技かるた」が大変に面白くて、普通に「へー!」って感心して読んでしまうね。作中にルールの説明が出てくる度に感心して、そのルールが活きた展開になるとおおっ、と気持ちがアガるというか。決まり字の変化なんですごく面白い仕組みだし、優等生キャラでソツがない分押しが弱かった太一が、その弱みを強みに変えるべく、決まり手の変化に集中して戦う東京大会決勝戦なんて、ものすごくぐっときました。
一事が万事そういう感じで、よくできた競技だし、それを存分に生かした、よくできた作品だなーと思う。競技かるたは、子供の頃にやってても成長と共に競技から離れてゆく子が多いとか、だからこそ子供時代の力量が10代で簡単に逆転してしまうところとか、かつてのライバルが味方になる様子とか。「名人」という位があるところからしても、ちょっと将棋とかにも通じるところがあるのかもとも思うけど、4巻で新が大会に駆けつけたときに運営の先生から言われた一言なんて、人それぞれに「かるたのスタイル」がある、っていう競技ならではの、ものすごく泣ける一言だった。よさを言葉にするのがばかばかしくなるくらいなのですが、読んでて相当ぐっと来ました。
小学校時代のパートが終わって高校のパートに飛んだとき、千早と太一がものすごい美形に成長しすぎていたのには笑ったけど、まあ、少女マンガのお約束ではあるので、ヤな気持ちにはならなかったなあ。そういう意味では、高校生になった千早は皆にうらやまれる容姿を持っているのに、その恩恵を活かそうとはぜんぜん思わず、むしろ先に「美人」として成長しきっていたおねえちゃんのキレイさを称える側に回ってしまう、っていうのがまたね…千早のコンプレックスは容姿を褒められることじゃあ解消しないんだなあ、という感じで、よくある言い回しをするなら、千早は「かるたの形に穴が開いている」子で、かるたでしか彼女は補完されない、その感じが出ていて、なんだかすごく説得力を感じた。
この作品て、いわばスポ根漫画なわけで、一般的な少年漫画のメソッドに近いのかなーとも思うんだけど、少年漫画が苦手なわたしにも十分楽しめたのは、出てくるかるた取りの子たちが皆、コンプレックスを修復するための手段としてかるたに集中している様子が好みだったからかもしれない。うまいから、ほめられたからやる、のではなく、かるたでしか補充できないマイナスを抱えている、という描き方。そのマイナスの形は人それぞれ違っているけど、ちゃんとモチベーションが描かれているというのが、気持ちとして入り込みやすい要素なのかなあと思った。
まあこれは、少女漫画のよさ、ってことなのかもしれないですね、少年漫画のスポ根ものだと、マイナスを埋めるためじゃなくて、大きなプラスを得るために努力をするような描き方が多いのかなーという印象なので。男の子って、テスト前に「俺きのう1時間も勉強しちゃったもんねー」とか自慢する子が多いけど、女の子は「ぜんぜん勉強してないよー(4時間しか)」みたいなことを言う子が多い気がする。そういう性質の違いが反映された、女の子に入り込みやすいスポ根漫画になっている感じです。
でも、スポ根の定石、「スタープレイヤーじゃないからこその負けん気」が描かれた東京大会決勝戦の肉まんくんの「勝ちたいよ」なんてホント泣けたし、「究極的には勝ち負けよりも競技への愛情が勝敗を分ける」みたいな須藤と千早の決戦の最後の1枚もとてもよかった。上に挙げたけど、太一の決まり字への集中を描いたところもたまんなかったです。千早の家のリビングにいつの間にか「千早」ファイルができているところなんて、ちょっと泣いてしまったなあ。顧問の女帝がかるた部を認めるところはやや簡単すぎたかという気もしつつ、全体的にすごく丁寧に描かれた、いい漫画だなあと思いました。今後、かなちゃんと机くんの開花で泣かされそうな予感を胸に、次巻を楽しみに待ちたい。
あ、そういえば4巻巻末の次巻予告では、また須藤が出てきて千早に喝を入れるようなので本当に楽しみです。「須藤のSはドSのS」とか、やけにキャラ付けがはっきりあったのでまた登場するんだろうとは思っていたけど、こういう「敵だった相手がより強い相手との対戦に際して味方になる」のって、スポ根の定石ではあれど、やっぱりものすごくワクワクしちゃう。肉まんくんが既にこの定石によってチームメンバーになっているけど、須藤は何せドS、またちょっと違った味わいがあるよね!というか、わたしが須藤をすきなだけかな…なんでこうも性格悪い男性Sキャラに弱いのかわたしは…ドMだから…?