あしたはうんと遠くへ行こう/角田光代

あしたはうんと遠くへいこう (角川文庫)

あしたはうんと遠くへいこう (角川文庫)

一人の女の子の、高校時代から30過ぎまでの恋愛史みたいな作品。前に角田さんの作品を読んだときは「どこがそんなに面白いのかわからん…」と思ったけど、これはすごく面白かったです。この人、思春期以降の女性のうっとおしさはべらぼうにうまく描くんだなあ。ひどく感心しちゃったよ。あと、タイトルが大変お上手。
主人公は、とてもバカで思い込みが激しく気持ちの悪い女で、彼女の恋のことばっかり出てくる作品だけど、どの恋もどの恋もひどく身勝手で無意味に体当たりで、その都度主人公はダメージを受けているのに、全然懲りてるように見えず、失笑するしかない…そういう話だった。恋がうまくいかなくなると遠くへ行くという規則性もひどい。でも、主人公のうっとおしさの割に、一人称の筆致は冷静で淡々としたものなので、なんだか意地悪な冗談みたいに読めてなかなか笑えた。
わたしにも、若かった頃、理性ではコントロールできないくらい「好き」って気持ちでいっぱいになって、あとから考えたら訳が分からないとしかいえないようなひどい行動を取ったこともあった気がする。けど、その経験を照らし合わせてもなお、この作品の主人公の言動には一切共感できず、ひどくカリカチュアされてるなあと感じた。そこに…なんというか、作者の作為みたいなものを見た気がしたなあ、ここがこの人にとっての描きどころなんだろうな! というような確信っぽい感触があって。
ま、それが「作為」であって、「悪意」じゃないから読めるんですけどね。でも、かなり同性に厳しそうな作者の眼差しをビシビシ感じて、その割に男性の造形はえらく緩くて面白かったです。