おやすみ、こわい夢を見ないように/角田光代

おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫)

おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫)

そんな訳で、角田光代面白いんじゃないの? 第二弾。より一層、同性に厳しい感じの作者の視線が面白かった。これもものすごくタイトルがお上手。
短編の密度が高い、という点で感心してしまった作品がいくつか。ささいな要素を膨らまして膨らまして、掘り下げてきっちり一篇一篇仕上げてあるように思ったし、そこにうまさは感じられたものの、なーんか生理的にあんまり好きじゃない人たちが出てくるかんじが…多かったかな…。
どの作品でも人のダークサイドがきっちり描かれていて、その度合いに対してブライトサイドがあまり描かれていない。そのせいなのか、読んでてなんだか元気がなくなってしまってびっくりした。別に、正しくてやさしくて朗らかな人の行いが描かれた作品だけが好きだということではないんはずなんだけども…人間のいいところばっかり描くのと同じくらい、後ろ暗い感情ばっかり丁寧に描くのも、時としてはリアルに感じられないってことなのかも。
主人公全員がひどく独り善がりなところがあって、内的世界と周囲の環境を繋ぐ回路がうまくまわっていない感じを抱えている人ばかり。しかもその状況について、もれなく周囲に転嫁して怒りを抱えている。そういうこともあるかもしれないけど、そんなことしてもしょうがないじゃん…というところでジタジタしてる人がたくさん出てきて、読んでいてあんまり心地よくなれなかった。
でも、類型的というか、例えば「30代で未婚の女性が、結婚した友人とかみ合わなくなる」的なありきたりなモチーフに留めないのは、簡単な賛同とかで読まれたくないからなんだろうな、という気はした。その分、どれも薄っぺらくはなかったかもしれない。この不満だらけの主人公たちは、この世界のどこかで息をして、ため息ばかりついている、という感じはちゃんと持って読めた。から、よく書けてるんだと思う。ただ、やはりあまり心地よくはなかったんだ…な…。
これは、自分のダークサイドに直面して落ち込んだりしている人が、虫歯をつい舌でつついてしまうのと同じような気持ちで読みたくなる作品なのかもしれないですね。わたしはもう中年なので、痛気持ちよがっている時間があれば、現実的なことを進めるほうに使うようにしているよ。