町でうわさの天狗の子(4)/岩本ナオ

わーい、続き待ってた! 読み始めたばかりで続刊が出ちゃって、なんだか申し訳ないような気持ちになります、最初から読んでた人はもっと待ってたんだろうなーと。それくらい、続きが嬉しい作品。
花火の日の三郎坊と赤沢ちゃんのエピソードが…なんかもう…ね!!(ハアハア) こないだハチクロ読み返して、花見の日に野宮さんが山田を連れて観覧車を見に行くときのシーンで胃がギリギリしたんですが、やっぱりなんかこう、「みんながいるところから2人で抜けがける」っていうシチュエイションは、それだけで浮き足立つ感じがあってほんとおおおおおおにたまらない…(37さい)。
話は逸れるんだけども、昔、なんかのドラマで観た誰かの役に対して、「冬の飲み会を二人で抜け出して、ガードレールに座って缶コーヒー飲みながら喋りたいよネ!」みたいなことを熱く主張して友人たちに可哀相がられていたことがありまして。今となっては、その役者が誰で、何のドラマの役にそんなに盛り上がったのか、ビタイチ思い出せないんだけど(ひどい)、それって別に、そのあとどこかにしけこみたいとゆーことではなく、ただ、皆がいるところから離れてもっとゆっくり喋りたいだとか、ただちょっと一緒にいたいだとか、そういうレベルが好ましいと思っていた気がする訳です。そーいう、少女漫画的な冗談のつもりだったけど、その尺度で言ったらこの漫画の三郎坊と赤沢ちゃんの抜けがけ、「撫でてもらう」なんつうもっとかわいらしい目的(まあ、相手が狐なので!)で、そこが抜けがけ好きの嗜好のど真ん中という感じでキュンキュンきました。天狗と人間の間に子供が生まれる世界なら、眷属修行中の狐と人間の間での恋愛も成立するかもしらんの…フフフフ…。
瞬ちゃんの京都行き問題は意外とあっさりと、無難なところに落ち着いたな、という印象。3巻までの感想(→ id:oolochi:20090403:p4)で「海行ったときみたいに、秋姫に頼られてお山に自分から残っちゃうのでは?」と書いたんですが、「わたしが行くなと言ったら瞬ちゃんは行けなくなるから、わたしだけはそれを言っちゃいけない」みたいな意識を秋姫が持っている…と読んだときに、うわあとなって、本当にいい作品だーと思いました。秋姫と瞬ちゃんの関係性がもっとちゃんと強い感じがして嬉しくなってしまって。またねえ、その関係性を一番的確に見ているのが、タケルくんだったりするところも実にいいのだ。ここに来てタケルくんのほうが「いろんなことを分かってる」度が高く描かれていて、一方で瞬ちゃんが単なる天狗バカみたいになってるところが笑えるし、切ない。
秋姫が初めて作るカレーのじゃがいもがなかなか煮えないこと、お父さんのことを苦手がっている部分もあるのに喜ばせようと自然に考え付くところ、タケルくんにふられたあとの周囲のやさしさに気付いているのに、楽しく振舞えない自分がつらいところ。ことごとく秋姫がいい子でかわいくて、なんかもう、ぎゅーってしたい。もうタケルくんのジャージの汚れを気にかけられないんだ…って考えて失恋の実感がこみ上げてしまうところなんて、なんだか銀色夏生の詩*1みたいじゃないか! と全身掻きむしるよーな気持ちになっちゃった…甘酸っぱ…。「今更、友達とかムリ」みたいに言ってた秋姫だけど、学校で普通にちゃんと喋りたいと思うところも健気だし、それをちゃんと受け止めるタケルくんもよかったです。んとに、みんないい子だよねえ…!
スカート丈とか、小さいことだけど、当人たちにとっては大事なことなんだよなーと思い出してしみじみしたりもしました。制服着ている女の子たちと、それを見ている大人たちとで認識がばっつり分かれちゃうところとか、とてもわかるなあと。短くしてかわいくして制服着るのを楽しくしたい、友達たちと共通の価値観を形にしてコミットしたい、という女の子たちの気持ちは昔の自分の体感として思い出すことができるし、そんなに短くしてみっともない、パンツ見えたらどーすんだ、っていう大人たちの気持ちは、今の自分の体感として理解できるし。どっちも分かるし、どっちも自分なりの基準な訳だけど、瞬ちゃんを心配させないために丈を長くする秋姫の真面目さは、大人のわたしにしたらものすごく好ましいと思った。どっちかっていうと、お父さんへの遠慮とかってレベルではあるけども。
そういう意味では、秋姫にがみがみ言う瞬ちゃんは、若いのにすっかり大人側の視点よね…と不思議な気持ちにもなりました。若いのに恋愛とか関係ないところにいっちゃったおっさん、みたいな。スカートのホックがふっとんだ秋姫に「何かあったらどーすんだ」みたいに言う瞬ちゃんには失笑したなあ、怪力で名の通った天狗の娘・秋姫のスカートがすとーんて落ちたからって、ムラムラするような命知らずは多分、君の学校にはいないから! て…んとにお父さん目線だよね…。
秋姫の髪が多いことをからかってばかりいた瞬ちゃんが髪型を褒めて秋姫を励ますところもよかったし、ミドリちゃんの勇気の振り絞り方もいじらしく、ぐっときた。それに何より、タケルくんが秋姫を取り巻く状況に対して抱いているコンプレックスがつらく、別れたからこそ秋姫にそれとなくそれを言えるタケルくんが切なくて仕方がなかったなあ。タケルくんがこのまま秋姫と離れてしまうのがもったいない気すらした…って感情移入しすぎですが。
でも、一番好きだったのは、赤沢ちゃんが三郎坊に連れ出されて頭を撫でたシーンで、三郎坊が逃げたあと、瞬ちゃんに「若干気に入られたようだ」と言われて「若干?!」とむっとするところ。あれで若干?! みたいな、好かれてるという感触があってときめいてんのに、何これ気のせいだっつーの? みたいな、赤沢ちゃんの動揺が大変にいとしかったです。
あ、あと、八郎坊のヒト型のルックスや雰囲気がなかなかのヒットだった! 以上です!

*1:「彼が置き忘れた本を持っていけるのは、彼女の特権。/彼の好きな歌を大声で知らせるのは、彼女の特権。/彼が落ちこんだ時にただひとり近くによれるのは、彼女の特権。/それをまわりのみんなが認めているということが、いちばんの特権。」とゆー詩で、タイトルは「彼女の特権」。そのまんま。大学時代、先輩と付き合いかけてる…みたいな状態の女の子が部室ノートにガリガリ写経していてひどく笑ったので印象深い。