スティル・ライフ/池澤夏樹

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

ただただ、冒頭のこの文章を読みたくて再々々々々…読した。

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。

学生の頃に初めてこの作品を読んだとき、ここ読んでウヒョー恥ずかしい、星を見るとかしてだって! みたいにげらげら笑っておった。でも今は、よーくこの文章をおもいだすのです、女流作家にありがちな、「世界が自分のために存在している」という前提で描かれているとしか思えないような作品を読むたびに。
読む本の大半に対して「好きじゃない」みたいな感想を書き留めているわたしですが、好きな現代作家だっているんだよ、という話。それでも時々、読んでて恥ずかしくなるんだけどね! ぶはは!