ソングライターズ・矢野顕子 Part2(HNK/2009.09.12)

もう2週間近く前に放送になりましたが、2回目も無茶苦茶面白かったのでメモ。録画してないのでうろ覚えですが。
何がすごかったって、やっぱり、客席の学生が書いた断片的な言葉に即興でつけた曲を弾いて、歌っていた矢野顕子の才能がすごい、ってことであって。あんな短い時間で、鳴る音がちゃんと「矢野顕子」の音になっているっていうことがすごい。あんなの、なんって格好いいの!(ハアハア)
学生からの質問に応えて答える矢野さんの言葉がいちいちぽわーんとなるくらい素敵で、「自分が意図したものと違う受け取り方をされた作品は失敗作だと思うか」っていう若さ丸出しの質問に、「むしろ大成功」と言い切るアッコちゃんの懐の深さたるや。この質問者の蒼さが、芸術系の大学に通っていたわたしには懐かしすぎてニヤニヤしちゃったんだけど、それに対してアッコちゃんが返した答えの、「奥田民生さんが歌ってくださる『ラーメンたべたい』を聴くと、わたしはそんなラーメンは知らない! と思うけど、そのラーメンはとてもおいしそうで、そのラーメンをおいしそうだと思うお客さんも幸せになって、すばらしいことだと思う」というような例がとても分かりやすくてよかったです。作品に込められた意図を汲んでほしい、なんて期待を押し付けられるのは、受け取り手としては非常にキツいことなので、そこに自在な解釈や楽しみ方を許してくれるアッコちゃんの度量は、受け取り手としてとても信頼と愛情を感じられて嬉しい。
それから、「女性としてどう生きていったらいいか」っていう質問者に対する回答も。「まず、仕事をがんばること。そこで、自分なりのやり方を見つけること。そうしたら、それを認めて褒めてくれる人っていうのは、結構いっぱいいるものだから」っていう、シンプルで、その分ホントに戦ってきた人にしか言えない言葉で、わたしも泣きそうなくらいに励まされた気分になった。何より、前提として口にした「社会は平等ではない、平等にはならない」っていう断言がね。大学生くらいだと、多分まだその「不平等」の入り口に立ったくらいなので、その後にその「不平等」をどう捉えるかによって、世の中のきれいなもの、きれいじゃないものの見え方が変わってきてしまう。その大事なときに、アッコちゃんにあんな言葉をもらえたら、さぞや励まされることだろうなあ、と質問者がうらやましくなりました。
前週、「ほんとうのこと」についてアッコちゃんが語っていたけど、わたしがしみじみと思うのは、アッコちゃんが見ている「ほんとうのこと」をまったく理解も共感もしない、できないタイプの人だってきっと、世の中にはたくさんいる訳で、例えば、佐野さんがリライトした歌詞の元ネタを書いた男の子なんかも、言うに事欠いて「着メロにしたい」って、そんな感想があるか、と思いますけど、彼にとってはきっとそれが「ほんとうのこと」なんだろうと思う。それが、大人たちが語っている「ほんとうのこと」と合致しているか、彼には確かめる術がない訳ですよね、きっと、大人の考えていることを知らないし、想像もしたことがないから。
わたしが昔、制服を着ていた頃に矢野さんの音楽に出会って、惚れ込んで、繰り返し聴いて泣いたりとかしてきた、その頃はインターネットもないし、誰も周囲とそんな話はしなかったから、ひとりで、本当にひとりで、そこに歌われている「ほんとうのこと」に耳をそばだてて、大事なことをそこから学ぼうとしていたっていうこと。それを思うと、例えば、京都の大きな原っぱで、たっくさんの人と一緒にアッコちゃんの歌を聴けたことだとか、インターネットで知り合ったお友達と一緒にアッコちゃんの出演するコンサートに足を運べたことだとか、夫と一緒に、くるりの2人が客席にいるのを見ながらアッコちゃんの演奏を観られたことだとか、そのどれもがすごいことのように思えるし、同時に、「わたしの見ているラーメンと他の人の見ているラーメンが同じものだとは限らない」っていうことも感じる。ひとりで聴いている頃、アッコちゃんの歌はわたしの世界の中を照らす絶対的な太陽で、アッコちゃんが歌う「ほんとうのこと」を自分はちゃんと感じられている気持ちになっていたけれど、必ずしも、アッコちゃんの音楽を聴いている人全員が同じものを感じている訳ではないし、感じている必要もないってこと。それが「わたしはわたしのラーメン食べる、責任持って食べる」ってことだっていうのを、なんとなく、最近改めて感じられるようになった。細かい解釈は人それぞれで構わないけど、でも、矢野さんの音楽には「ほんとうのこと」を歌っている強さ、清さは確実にあって、それすらも感じられない人が中にはいる一方で、きちんとそれを感じられる人がいて、そういう人たちと自分が出会って来られているっていうことを、嬉しく、本当に嬉しく感じたということでした。
なんか、ソングライターズの話だったのに逸れましたが、東京 JAZZ に行ったときに思ったんです、わたしの周囲には矢野さんのすごさを知っていて、一緒にわくわくとコンサートに行ったりできる人が何人もいてすごいことだな、嬉しいな、って。同じように、この番組を観ていても、矢野さんの言葉にぐっと来る度に、多少違った受け取り方であっても、この「ぐっ」を同じように味わっているだろう人たちを、自分がちゃんと知っている、ってことのすごさを噛み締めました。
わたしは矢野顕子と彼女の作る音楽が大好きで、同じように彼女とその音楽を好きだと思っている人たちのこともいとしく思う。そのことの幸福さを、改めて思い知らされた番組でした。楽しかったな!