くるり「魂のゆくえ」にまつわる謎の板クエスト

くるりが6月に発売した「魂のゆくえ」の初回盤ふろくだった「謎の板」を使った ARG が先日の音博で完結した…ので、感想とか書いときます。
ARG というのは Alternative Reality Game の略で、訳語としては仮想体験ゲーム、みたいな感じでしょうか。検索してみたらこちらの説明が分かりやすかった。


一言で言ってしまえば“現実世界を使ったゲーム”である。ゲームの参加者たちは、時には架空のウェブサイトにアクセスしたり、時にはラジオやテレビの情報に耳を傾けたり、時には実際に現実世界のどこかへ行ったりしながら、現実世界のあちこちに隠されたヒントをたどりながら、物語や謎を拾い集めていくことになる。これをつなぎ合わせていくことで、1本の大きなストーリーがうねりとなって展開されていく――というわけだ。

くるりがやった「謎の板」ARG は、専用サイトでクエストが掲示され、それを解いて答えを入力すると物語の続きが表示される、というつくり。クエストは全部で15あって、全部のクエストに BBS が設置され、そこで情報交換をして皆で物語を進めてゆくようになっとりました。
実はそのクエストのサイトですら、アルバムの歌詞カードに謎の板(紙でできた15cm定規くらいの板に、quruli という文字の形の穴が開いているもの)を当てて浮かび上がった文字列 q-help を、謎の板に印字された文字列に当てはめて URL(http://www.q-help.net/)を導き出し、アクセスした人が一日で5000人に達しないとオープンしない、という仕組みになっていたのですよねえ、これはのちにクエストナンバー「0」の「カウンタークエスト」として扱われてたけど。ひとりでやろうとしても絶対に無理な類のゲームだよ、と最初に明示されていた感じ。
エスト期間の途中で、そこまでに実施されたクエストの問いと答え、そこで読める物語に(クエスト1から始めなくても)直接アクセスできるようなインデックスっぽい紹介ページがくるりの公式サイトにアップされ、最終的には15あるクエストの13番目までかな? が、そのページで見られるようになってます。これ読むと、雰囲気わかっていただけるかと。
http://www.quruli.net/nazonoita/
ここにもあるとおり、アルバム発売のクエストスタートからゴールである先日の音博までの3ヶ月間、くるりに関係するありとあらゆる露出(ライブ、雑誌広告、ラジオ出演、Web ニュースの記事、Web でのみ観られる PV、WOWOW での武道館ライブ放映と連動した 12CAMS、等々)がこのクエストと連動してたんですよねえ。中には、歌詞カードじろじろ見て頭文字拾って URL を導き出すクエストとか、公式携帯サイトでのイベントとかもあったんですが、テレビ、ラジオ、ネットニュース、雑誌などのマスメディアだけじゃなく、全国19のタワーにくるりのポスター? が貼ってあって、そこに謎の板を当てると数字が得られて、19の数字を指定のマスを埋めるように並べると数値地図の経度緯度になって、それが差し示す建物の名前が答え…みたいなのもあり、企業や団体との連動具合に毎回びっくりしてました。タワーなんてさ、管理する団体ばらばらじゃん…。企画力と折衝力と調整力のある実務担当者がすっごいがんばったんだろうなあ、と思うと、そっちの意味でいたく感動してしまう訳です。
全部終わった今考えても、この大掛かりさは結構なものだったなあ、って思うし、ちょっと、バカじゃないのかしら、とも思うけど、すごいやりがいあっただろうなあ、となんだか頬が緩んでしまったりもする。仕込む側の楽しさが想像できてしまってにやあってなるんですよね。この ARG は謎解き=クエストの面白さ、物語の次が読みたいという気持ち、情報交換の妙、などが渾然一体となって引き込まれる、というのが理想のハマり方だったんだと思うのですが、大変恐縮ながら、わたしは物語と交流はどうでもよく、そのため、ラストクエストまで解けているけど、物語の結末は読めてなかったりもします。最後だけ、物語はネット上ではなく、現実の場所に行って読む形だったのに、そこに行く前にクエスト解き忘れてたのよね…。なので、いつかネット上で見られるようになる日に備え、公式に載ってるクエスト13以降の答えなどをメモっておこうと思って、感想がてらこれを書いておる次第です。
ちなみに、このゲームを作っていたのは京都で SCRAP というフリーマガジンを刊行している加藤さんで、ボロフェスタやったり、ロボピッチャーってバンドのヴォーカルやったりしてる方で、去年と今年、音博と連動して「京都1000人の宝探し」もやってらした…や、それより「リアル脱出ゲーム」とかを挙げたほうが「ああ!」って人が多いのかも。日記というかブログで書いてらしたことを見ると、クエスト解いた後に読める物語も加藤さんが書かれていたようで、あ、そうだったのか、という感じですすみません…。加藤さんのこのエントリをついったでメモってるお友達がいたので、「わたし参加したよ!」なんて手を挙げてしまったんですが、振り返ってみれば仮想体験ゲームの「仮想体験」要素を支える物語と交流を経てないから、このゲームに「参加」したっていうより、傍観してた感じだったなあ。うーん。
あとね、もうひとつ、こうやって書いてる理由があるとしたら、この「魂のゆくえ」というアルバムがある意味地味なアルバム(ひどいいいよう!)だったため、発売時に結構な不評をネットで目にしたんですが、その中に「謎の板とか言ってないで、オマケなしで音楽で勝負しろ」みたいな、わざと問題を取り違えて揶揄する声も見かけていたんですよね。でも、どー考えたってこれ、ゲームがついているからCD買うてや、っていう種類のゲームでは全然なかったし、物語にアーティスト側のメッセージがある程度込められてはいたんだろうけど、終わってみれば、メッセージだけのゲームではまったくなかったし。
これが、大きな広告代理店がやってることならフーン、オモシロイネーて感じですが、くるりの、要は音楽で知り合ったお友達?の加藤さんが企画して、それにアーティストのみならず、スタッフも一丸となって乗っかって実現した大規模な企画、っていう成り立ちが愉快だと思うのな。なんというか、つくづく京都カルチャーだなー、という感じもして。
わたしは比較的、「個」の情熱とそこに集まる信頼が、代理店のおゼゼをも凌駕するような成果を叩き出す、というのが生理的に好きで、しかも、それを支えていた具体的な部分が「謎解き」、っていうのも好みだったと。だから、ファンの中でも賛否両論だったこの企画を擁護、というか、くるりがやってるから、っていうのを離れて「こーいうのやってたんんだよー!」というのを、ファンという輪っかの外の人にも聞かせたい気がした。なので、こうやって書いている訳ですね。これを書いた原動力としては、くるりっつーバンドへの思い入れはほぼゼロなので、気持ち悪いところ探してワーヤダヤダって言いたい、みたいな読み方しないでいただければ嬉しいところですよ。
さて、では、以下はネタバレ。クエストの答えを知りたくない人はここまでにしといてください。クエスト13までは上記に載せた公式に答えが上がってますが、一応一覧性を考慮して全部クエストの答えを書き出しますよ。

Q1)ウエノエキ
Q2

  • 1)BAYASI
  • 2)ウドン
  • 3)ネイリ
  • 4)オヤジ
  • 5)たぬき

Q3)メリーランド
Q4)ひきこもり
Q5)ハーモニカ
Q6)ウィーン
Q7)ケンニンジ
Q8)1673
Q9)CGCGCG
Q10)センイチヤ
Q11)ヨギシャ
Q12)シバフ
Q13)カウベル

はい、ここまではおさらい。次はクエスト14、問題は以下のとおり。
「そのときは突然やってくる。あなたがふたりのために目にする機械が答えを導く。そしてふたりのさよならのあとにもやってきては突然終わる。この調べを答えよ。」
これはくるりの公式サイトで公開しているネットラジオの、音博数日前に更新された回の OP と ED でうっすら流している曲名を答える、というものです。

Q14)ホームラン

で、ラストクエスト。問いは以下のとおり。
「最後の物語はある場所に行かないと読めない。その場所はすでに提示されている。これまでのクエストの答えを以下のような8×8のマスに左上から右にかけて書いていけ。その両側を読むとある場所が浮かぶ。(*ただし、クエスト2については、最後の言葉だけでいい)9月21日、22日、23日の3日間の営業時間内にその場所に行け。」
これねえ、並べてみるとこういう感じなんですよ。

ウエノエキたぬき
メリーランドひき
こもりハーモニカ
ウィーンケンニン
ジ1673CGC
GCGセンイチヤ
ヨギシャシバフカ
ウベルホームラン

縦読みすると、「ウメこウジGヨウききカンCヤカン」。つまり、

Q15)
梅小路蒸気機関車館

9/22 に開催された京都音楽博覧会の会場、梅小路公園の一角にある蒸気機関車館に、前後1日ずつを合わせて合計3日間物語が掲示されていた、ということなんだそうです。わたし音博行ったのにさ…まあいいんですが。
で、面白いのは、機関車館にはくるりのパネルがあって、そこで人々はステッカーをもらったらしいんですよね。そのステッカーに謎の板を当てたら、「UIBMLT」という文字が浮かぶようになっていて、「M だけ一字下げる」というヒントがパネルに書いてあったらしいと。そもそも、謎の板には「rvsvmj」という文字が印字されていたんですが、これって何? ていうのと一緒ですよー、というヒントが BBS には書き込まれたりする。そうすると、

r の前の文字→q
v の前の文字→u
s の前の文字→r
v の前の文字→u
m の前の文字→l
j の前の文字→i

つまり、「QURULI」になる。同じ理論をステッカーの文字に当てはめて、M だけ一字下げる→前の文字じゃなくて次の文字にすると、

U の前の文字→T
I の前の文字→H
B の前の文字→A
M の次の文字→N
L の前の文字→K
T の前の文字→S

「THANKS」が最後のメッセージ、ということになる。それが、クエストの謎解きのラスト、っていうことみたいでした。
ただね、BBS で書いてる人もいて、わたしもラストクエストの BBS 見てて気付いたんですが、BBS の URL が http://www.q-help.net/bbs/thanks/main.cgi になってるんですよ。あれ、こんな、クエストの答えみたいな単語が URL に入ってるのって今までのクエストもそうだっけ? と思って、遡ってみたら、クエスト2〜14の BBS の URL のフォルダ名の部分が以下のとおりになってました。

2) http://www.q-help.net/bbs/yogi/main.cgi
3) http://www.q-help.net/bbs/shano/main.cgi
4) http://www.q-help.net/bbs/syuu/main.cgi
5) http://www.q-help.net/bbs/chaku/main.cgi
6) http://www.q-help.net/bbs/chit/main.cgi
7) http://www.q-help.net/bbs/enn/main.cgi
8) http://www.q-help.net/bbs/oba/main.cgi
9) http://www.q-help.net/bbs/syoh/main.cgi
10) http://www.q-help.net/bbs/akon/main.cgi
11) http://www.q-help.net/bbs/obbs/main.cgi
12) http://www.q-help.net/bbs/gamichi/main.cgi
13) http://www.q-help.net/bbs/biku/main.cgi
14) http://www.q-help.net/bbs/nodesu/main.cgi
15) http://www.q-help.net/bbs/thanks/main.cgi

つまり、「よぎしゃのしゅうちゃくちてんのばしょはこのbbsがみちびくのです」。なんかさ、細かいじゃんね…フフフ。あ、ちなみに「夜汽車」というのは、このゲームの物語に出てくる「主人公の意思を動力とする乗り物」で、主人公がいろいろ思い悩むことで行き先を見失ってしまうのですが、その軌道=「魂のゆくえ」を見据えるに至るとゆーのが物語の主軸になっております…って、結末読んでませんけど! ほんで、アルバム「魂のゆくえ」に「夜汽車」というタイトルの曲が収録されており、音博の会場となる梅小路公園は昔の機関区の車庫を公園にした場所で蒸気機関車館もある。音博で石川さゆりと一緒に演奏するために岸田が書いた曲のテーマも夜汽車。こういう感じで、なかなかにスルメっぽい。
ただ、このスルメを期待しすぎる向きもあり。クエストで文字列見るといじる癖がついちゃった人が多いみたいで、ラストクエストの BBS の URL http://www.q-help.net/bbs/thanks/main.cgi のファイル名に当たる main.cgi を消して、http://www.q-help.net/bbs/thanks/ でアクセスしたら、謎の板のマークに「COMING SOON!」って文字が並んだだけのページが表示されて、そのページのタイトル(ブラウザの上のバーのところに表示される文字列)が [QURULI] QUEST BBS-2 になっている…っていうんで、色めき立ってる人もいるもよう。

でもさ、通常、フォルダの直下には / で終わる URL でアクセスしたときにフォルダ構成が見えちゃわないよう、index.html を作らない場合はダミーファイルをこの URL で置いておくのが Web 制作の慣例じゃないですか? この「COMING SOON!」のページってそのダミーファイルにも見えるのよね…他のクエストの BBS のフォルダの index.html もまったく同じファイルだし。だからまあきっと、単なるダミーファイルなんだろうとは思ってるんだけど、ちょっとね、「BBS-2」とか言われると「まだ何かあるの?!」ってソワソワする気持ちも分からないでもないよね、っていう話でした。
そんな訳で、クエスト、謎解きが続くのが楽しかったです。加藤さん、つくづくおつかれさまでした、音博翌日の宝探し(というか謎解き)もしたかった! よ! …あ、物語の結末がじきに読めたら嬉しいけど、そのためにひとつネット上で謎をかけたりするのもいいんじゃないかと思います。にっこり。