「花よりもなほ」

きのうは、ピヨ丸さんから入場券を分けていただいた「ブレイブ・ストーリー」の試写会。しかし仕事の都合でギリギリ間に合わない、という状況に。入場券にはがっつりと「遅れて来たら入れません」と明記されていたので、勝どきの客先を出て、有楽町線に乗り換えるべく月島で降りたところで諦め、しばらくぼんやりとしていた。
で、ふっと気付いて有楽町まで行きつつ、携帯で上映中のタイトルと時間を調べてたら丁度いい按配でこの作品が。やり場のなくなった映画欲を埋めるために観て来たという次第。以下感想畳みます。
観終わってパンフを買って、電車でそれを読みながら買える途中にハタと「…あ、これ是枝監督の映画だった…!」と気付いてびっくりした。そんな感じ。それくらい、是枝メソッド(と勝手にわたしが思っていた種々のポイント)が完無視されている、えらい自由な映画だった。
キャストが豪華で、最初に撮影開始の報道を見聞きしたわたしは勝手にシリアスな時代劇だと思い込んでいたんだけど、全然そんなことはなくって、くすくす笑うのがずっと続く感じ。人は誰も死なない*1し皆へタレだし、いい加減でお調子ものばっかりが出て来て、神妙さがまるで感じられない。でも、すごく愛嬌のある世界で、ずっとにこにこして観てられた。
あとね、皆、ただバカなだけじゃなくて、ちゃんと胸の奥に痛みとか悲しみとかを持ってる人たちとして描かれてて、そこがすごく好きだったなあ。皆どっか寂しい感じで、だから笑顔がすごくいいの。子役も2人ともしっかりした芝居をして、豪華な配役が、それぞれの情けなさや哀れさを誠実に表現してた。
物語は、実にてらいのない、シンプルなものだったと思う。でもこの映画の根底には「ヒトへの信頼」みたいなものが感じられて、それがすごくよかったなあ。冷静でクレバーで愛情深い書き手の眼差しが、徹底して登場人物全員のキャラクターに投影されていた。だから全員、無茶苦茶愛しかったんだろう。世界観の勝利という感じ。
役者は全員よかったよ、とざっくりまとめてしまいたいくらい抜けナシ。まず、赤穂浪士たちの配役見ただけでも「わー」となるってもんで、寺島進田中哲司遠藤憲一現代日本の名バイプレイヤー集結という感じだ。主人公が住む長屋の住人たちも、千原靖史ダチョウ倶楽部の上島竜平、木村祐一、とお笑いチームで漏れなく揃い踏み。大家は国村準だし、マドンナ的な娘は田畑智子だし、この映画の出演者だけで2本分くらいの映画が成立するくらい層の厚いキャスティングだったと思う。トミーズ雅浅野忠信の使い方も贅沢だったなあ。
メインキャストは、岡田くんは本当にいい役者さんだなあとしみじみ。人間味があって軽妙で、だけどちゃんと大人の哀愁もあってすごくよかった。彼は顔もとても美しくて素敵なんですが、声が素晴らしいですよねえ。あの声は財産だなあと思う。あと、木刀を構えるときの腰の落ち方がすごくよくって、勉強も努力もしている人なんだなあと思った*2
宮沢りえちゃんは…あの…同じ学年なんですよね確かわたし。「Santa Fe 宮沢りえ」とかの頃のみずみずしい感じをリアルタイムに知っている身としては、今のりえちゃんは実にしっかり年齢を重ねていて、自分の周囲を見渡して比較してみても「え、ちょっと老けてない?」と思う。でも、その年齢の重ね方といったら無茶苦茶美しくて…いつの間にあんな風に、綺麗に「中年」に移動していたんでしょうか。女優さんにつきまとう「もう若くない」という時期の難しさを、完璧に、美しくクリアした感じがして、天晴れ、と感動してしまった。彼女はきっと、これからがすごくいいと思う。多分この人は、吉永小百合みたいに綺麗なままおばあちゃんになるんだろうな。いいなあ。
あと、香川照之さんが! この人は本当にいい役者で、屈折が似合いすぎてヤバイ感じがする。何を演じても陰を感じさせることができるのがすごいんだけど、今回はそれが浅はかで笑える感じに転嫁してあって、上手いなあ! って。それから古田新太さんももう、さすがとしか言えない芝居で、言葉が…「し」の音が強くて、あれは江戸弁ってことでいいんだろうか? 独特の口調と飄々としたさまがぴったりで、義に篤い感じ*3が格好よかったなあ。
と、色々まともな感想を書いているようではあるが、実はわたしの頭は加瀬亮くんでいっぱいだ! ああそうさ、ああいうの徹底的に弱いよ! 悪いか! 過去に傷つき、屈折を抱え、世の中を斜めに見ているひねくれ者。他人に優しくできるキャパがなくて、いつも誰かを傷つけては、そのせいで自分も傷ついちゃうようなダメな人。そしてあの細長い感じのルックス…好みすぎてもう笑う以外のアプローチが思いつきません。うふふ。やあ、本当に素敵だった。ずるいくらいだったよ。
あとは夏川結衣がちょっと余貴美子みたいだなーと面白かったり、どこかで読んだとおり、キム兄の役が明らかに「キャッツで言えばオジー」という位置づけて笑ってしまったり、色々細々あることはあるけど、とにかく全般的に楽しい映画であった。テーマはあるにはあるけど、そういうことより、肩の力を抜いて楽しめる感じがよかったです。ええ。

*1:一応、討ち入りを果たした四十七士はラストで「自害した」という言葉だけ出て来ていたけども。

*2:そしてそれを裏付けるようなことがパンフに載っていた。身体の重心を意識して芝居をしてたという話。やはり。

*3:役柄の話。ご本人は「役柄ほど面倒見はよくない」とパンフレットで語ってらした。まあそりゃそうだ。