鉄コン筋クリート

シネフェスの一企画、「松本大洋”まるかじり”」と題されたイベントで、「鉄コン筋クリート」「青い春」「ピンポン」3本の連続上映を観て来た。
普通に映画だけやるのかと思って足を運んだんだけど、まず最初、「鉄コン」上映前にトークイベントもあったよ。このトークイベントもものすごく面白くって、たっぷり楽しんだ後に上映、という感じだった。知らなかった分、ものすごく得した気分だった。その後で「青い春」「ピンポン」と朝5時までぶっ通しだった訳ですが、1本目が「鉄コン」だったので、まだ眠くなる前のクリアな脳みそできちんと見られたような気がする。
以下トークイベント(というか座談会?)の内容はまた別途メモれたらいいなあと思いつつ、取り敢えず「鉄コン」の感想だけをメモ。原作が13年前に発表されてる作品なので、ネタバレとか気にする意味があんのかわかんないけど、一応畳んどきます。
まず、アニメーションの話。アニメに詳しくないのだけども、何か、街がものすごかった。奇妙な赤みの強い色彩の、大陸っぽいディティールと、さりげなく現実に存在するあちこちを模しているようにも見える街並み。わたしの観た感じでは、新宿、浅草、吉祥寺らへんっぽさを感じた。そのせいで何か、ムショウに懐かしみを覚えてしまって、開始間もなくから、早くもちまちま泣いていた*1。存分に気持ちが悪いです、ホントすみません。
映像のことで言えば、静止画で違和感を覚えていたキャラクターの目の離れ方も、動画になるとあまり気にならなくなるのが面白いなーと思った。手足が先っぽに向かって先細りになっているのも、独特だけど見慣れたら愛嬌を感じちゃった。
あと、後半、クロの心象風景というか、例のイタチとの対話の部分。あそこの映像はすごくよかった。アニメの抽象シーンて何か、急にメルヘンになったりするイメージがあるんだけど、この作品のは安易にふわふわさせず、しっかりと荒涼とした心象風景を描きつつも、現実のそれとはちゃんと違って見える質感、風景が移ろってゆく速度、なんかが見応えあった。
声優陣は皆、割とよかったんじゃなかろうかな。わたしはよいと思った。ぶっちぎりはネズミの田中さん。いろんなことが分かっちゃってる男の、諦観とか悪あがきとかが滲んだ、大変に魅力的な声の芝居だったように思う。最後の木村との会話なんてめちゃめちゃよかったなあ、壊れちゃったクロとの会話からの流れがまた。
ヤクザの木村(伊勢谷友介くん)と街の不良チームのヘッド・チョコラ(大森南朋さん)が言い争うシーンで、ぱっと声の主のキャラクターをイメージすると配役逆じゃね? みたいな感じがあったのが、声の芝居で聞くと全然イケてるのにへーっとなった。伊勢谷くんがね、実によかったのだ。前半はいつもの「窪塚の真似」と言われる独特の言い回しを押さえた芝居をしていて、キャラクターの怖さがばっちり出てた。後半は人間味が強調されるから、またちょっと芝居のトーンが変わっていたんだけども。大森さんは可愛げのあるキャラになっててちょっと意外だった。
岡田義徳くんはシーンが少ないので、観てる間は気付けなかったなあ。蛇も、「誰だっけ、誰だっけ」とずっと気になりつづけていたんだけど、「この気持ちの悪い芝居がハマる人…誰だっけ」って考えてたので、エンドロールで本木さんだと知って、ああ! となった。悪者のあの強い3人、あれまともな台詞はないけど、声、森三中だったのね。事前に情報として見たことはあったのに、観てる最中は忘れていたので、エンドロールでこれまた、ああ! って。
だがしかし、宮藤さんだけは全然フラットに見られ(聴け)なかった…ので、どんな出来だったのか分かんなかったんだよね…。もうそんな自分にびっくりだ。前半の「自分、不感症なんで」を連呼(おおげさ)するところとか、笑うところじゃないのに笑ってしまったりな…(うなだれ。 後半のシロとの絡みは普通によかったと思ったんだ。でも前半は分かんなかった。ちょっとキャラの強い台詞が前半に多いからかなあ、宮藤さんが台詞を読んでいる、という風に聴こえてしまってた部分が。
クロが己の心の闇に取り込まれそうになっているのを感知したシロが、「ダメ!」と叫んで転げ廻るシーンの、シロを抱きしめて「クロに会いたいんだよね?」っていう台詞が、ちょっと聴いたことないような優しい口調で、あー、こういう声も出る人なんだ、と思った…っていう、もうほら、そもそも見方がおかしい。わあもうすみません、ここだけは引いたところから見ることができなかったんだ…! しかも、声だけの芝居って、余計に色々透けてくるものがある*2。なのでねえ。ええ。
クロのニ/ノ/宮くん。最初、ちょっと「大人」の声かなーという気がしてしまったんだけど、その「大人」っぽさがクロの抱えてるものの大きさ、って風にも聴こえて、結果としてはすごくよかったと思う。彼もまた、前半よりも後半が圧倒的によく聴こえたなあ。平和なときのシロとの会話は、ちょっと大人っぽすぎ+寂しそうすぎ、という風に聴こえたけど、心象風景のところとかはすごくいい。考えたらわたしは、この人が演じているドラマや映画や舞台を観たことがない。だからどんな芝居をする人なのか知らないんだけど、屈託を演じるのが上手そうだなあと思った。哀愁のあるいい声をしてますね。
ただイタチのシーン、あれは…この人の声は結構目立つ声をしているので、イタチの声もこの人がやっていることがすぐに分かってしまった。結果、イタチが誰なのかもすぐに分かってしまったという。でもまあ、そこは原作と違って引っ張ってなかったから、いいのかな。いいんだろうな。多分ね。最後の最後、青い海でダイブするときの声が聴いたことがない声で、わあ、ってなった。落差と言ってしまえばそれまでだけど、ああいう子供らしい、若者らしい声を、最後に聴けてよかったなあ、という感じのよい後味が残った。
シロの蒼井優ちゃん。かなり相当、本気で危惧しておったのだけども…やあもう、よかった、すごくよかった。何だろう、何を心配してたんだろう、という感じ。この子はすごいなあ、ホントにシロの声にわたしには聴こえたよ。「空が黒くなってくると、シロ、何だか寂しくなるのね」とか「クロにないねじ、シロが全部持ってた」とか、大事な台詞がものすごくナチュラルに聴こえて、それってつまり、シロってことじゃん、と思った。まだクロと離れ離れになる前に、「あんしん、あんしん」って呟くところの声とか、ホントたまらなくって、それだけでしくしく泣いてしまった。
シロが一瞬おっかなくなるシーン、「こんな街嫌いだ」「みんななくなっちゃえばいい」とぶつぶつ呟くシーンの静かな狂気もよかった。藤村と沢田に連れ去られるシーンの叫びがつらくてつらくて、母さんだらだら泣かされた。ふんとに、なんて声を出すのだろうなあ、この子は。その後の、諦めたみたいになっておとなしく沢田たちに面倒焼かれてるところのシロの、めちゃめちゃ淡々とした口調とか、すごくよかったんだ。
ただ、沢田にねじの話をして、「沢田にも足りないねじがある」「沢田はクロに似てる」っていう台詞が外されてたのがちょっとしょんぼり。あそこ、すっごく好きな台詞だったんで。シロがなんで皆に愛されてるのかがよく分かるところだったと思うんだよねえ、天使みたいな感じというか。沢田もシロによって救われてるんだなあ、っていうのが浮かびあがるシーンだったように思ったんだけどね、原作では。
というか、全体的に、この映画では藤村沢田の描写が意図的に弱くしてあった気がした。多分、2時間に収めるために、フォーカスする箇所を限定した結果、彼らの思いについては極力簡略化することにしたんだと思うんだけども。漫画をそのままアニメに起こすんではなくて、きちんとバランスの取れた2時間の作品にまとめるのであれば、こういう取捨選択はあって当然だと思うから、それ自体「えー」とは思わなかったんだけど、シロと沢田が仲良しになってゆく感じ、そこにもやっぱり寂しさみたいなのがあって、足りてる者同士じゃない、足りない者同士だから必要とし合ってる感じ、原作ではあれがすごく、すごくよかったので、映画の中でもあのシロの台詞が聞いてみたかったなあと思った。その分、シロとクロの関係はくっきり出てると思うので、全体としてはよかったんだと思ったんだよ。でも、沢田が好きなので、仕方ないと思いつつ、やっぱりちょっと寂しかった。同じように好きな木村は結構丁寧に描いてあったように思うので嬉しかったのだけどな。
あと、アジカンの曲がエンドロールでかかったんだけど…うーむ。そんなに合ってる感じじゃなかったのが残念だったなあ。まあ曲が先にあって、タイアップの話が後から決まったんだろうけども。映画の上映が始まる前にアジカンと優ちゃんからのコメント映像が流れていたんだけど、アジカンのコメントのときに、隣の席の女が「ひゃはーっ」って引き笑いを3秒に1度繰り返していて、ああ、ファンなんだな、と思いこそすれ、ホントに3秒に1度のペースで笑っていたので、ものっそい気になってしまってコメントの内容はまっっったく覚えていない。あんなに反応するかね普通…?まあねえ、自分がその立場になってみたいと分かんないけども。んー。
ともあれ、わたしは原作も好きだったけど、コミックスを所持して繰り返し読み込んでいるタイプではないので、それくらいの距離感で見たら、すごくよくできた映画だったように思った。たくさん泣かされてしまったよ。他にも色々思ったことがあった*3けども、取り敢えず感想としてはこんな感じで。

*1:ホントは更に理由があって、上映開始寸前に、松本大洋さんから監督のマイク宛に直筆のメッセージイラストを大画面に映し出していたのです。それを見てマイクが泣きそうになっている、のを見てわたしが早くも泣いたりしていたので、映画が始まった段階でスイッチ入り放題に入ってたという次第。

*2:それを隠すことができるのがプロの声優さんの芝居なんだろうけども、役者さんとかがやる声の芝居は、この「透けてくるもの」がある種のリアルを生むって側面がある。これは監督とプロデューサの間での共通見解だった(最初はマイクは、完全に素人からのオーディションにしたいと言ったらしいけど、最終的にはこのキャスティングで納得してたっぽい)そうだ。

*3:1つだけメモっておくと、他の2作を見て、共通のモチーフに気付いた部分があった、という点。「相棒」「おかえり」等々。つっても、これじゃあ分からないよね…まあいいや、己メモってことで。