NYLON 100℃ 29th SESSION「ナイス・エイジ」/世田谷パブリックシアター

楽日。面白かったー。体力不足で後半ちょっと身体がしんどかったけど、脳みそはだれずに3時間半観られた。タイムトリップにまつわるドタバタが主眼目だったから? 伏線がいっぱい出てくるのだけど、それがあんまり大きな伏線じゃなくて、すぐに「ああ、あれが」と分かるようなささやかな伏線が多くて、観客に優しいコメディだったと思う。あと、ナンセンスな笑いの度合いが程よかったんじゃない? よく分からないけど、平均的な観客って、あんまりナンセンスギャグって好きじゃないんでしょ? この作品は「ナンセンス」とまでゆかない、ライトな「ズラし」のギャグで笑わせてる箇所が多かった気がする。だからバランスが丁度よい感じだったんじゃないかなあ。
役者も皆さん非常によくて、やはり大倉孝二くんはずるい役者だなーと改めて実感。金髪をがーっと立てて、長い手足で舞台上を転がり廻っていてたまらなかった。一箇所、壁に手を付いたらそこの壁が回転扉になっていて、開けちゃいけないところを開けてしまった大倉くんに、板つきの役者陣が噴出しそうになっていたシーンも。笑った。池谷のぶえさんは本当に、完膚なきまでに素晴らしいよ。彼女ほどの強度を持ったコメディエンヌは他に知らない。原金太郎さんとのコンビってことでは、空飛ぶ雲の上団五郎一座の「キネマ作戦」を思い出してにやけていた。ブルースカイのレミゼもちょう楽しみだなあ。ああ、池谷さんをもっともっと観たい…レミゼ1回じゃ利かないかも…。
あと、峯村さんがちょうツボで、「元・使用人、現・妻」って立場の複雑さとか、子供を亡くした母の無念さとか、すごくよかった。中でも、孫にあたるヨウコと、近未来で会ってその後の次女の結婚生活を訊くところ、あそこで「これからは、わたしがずっとついている」「ついていって、旗を振る」「小学校も16校全部ついてゆくんだから」、みたいなことを言ったとき、何でか分からないけど、涙がどばーっと出てきた。って、また泣き話書いてますよ、この中年は…? 感情が動くと泣いてしまう癖がついちゃったみたいで情けないんだけど、いきなりどばーっと来たので、自分でもびっくりしたのだ。ホントすみません。
他にも、坂田さんのアロハが毎回ことごとく、めちゃくちゃ格好よくって涎が出そうになったり、新谷さんのキャラが可愛くなかったら話にならないところを、見事にふわっふわしてたり、空港で「お姉ちゃんともっと話したいことがあるの」と絶叫する長田さんにもちょっと泣けたり、志賀さんの教授に大笑いしたり、みのすけはなんかもう、いくつか分からないよ! って思ったり。キャスティングは全般的にすごくよかったと思う。初演の三宅さんて大倉くんの役? ああ、それはいいなあ、観たかった…。
そういえば、舞台の感想とは直接関係のない話だけど、わたしは中学校1年生のとき、あの事故で同級生を亡くしている。私立の女子中で、入学して最初の夏休みのことだった。亡くなった子とはクラスが違ったため、顔も名前も認識しないままに事故に遭い、他界してしまった。だから悲しかったりはしなかったんだけども、その後中学3年のときに実施された校内作文コンクールで、その亡くなった子のことを書いた子がすごく多かったことに気付いて、何だか1つ「分かった」感じがしたんだった。
わたしが通っていた中学は高校との一貫教育が売りで、6年間毎年クラス替えを行っていた。だから、あのままその子が生きていたら、高校卒業までの間に、どこかで同じクラスになって、もしかしたら、すごく仲良くなっていたかもしれないんだなあ、ということ。その後、わたしは折に触れてそんなことを考える。人が死ぬ、ということは、その後のすべての可能性がゼロになるっていうことであって、それは本人の可能性、という意味だけではなくて、その人とその後に関わるはずだったかもしれないすべての人の可能性も消える、ということなんだと思う。他人が死んで悲しいのは、その後、その人と体験できたかもしれない色々なことが、全部無になっちゃったことが悲しんだと思う。そのことを、なんか、久々にぼんやり思い出しながらこの舞台を観ていた。
まあ、そんなことは関係がなくて、非常によくできたコメディーだったと思うのだ。時空間移動の矛盾とかに触れるほどには、真面目にタイムトリップを描かない感じが好みで、物語の展開による波乱の収集を、ラストであんなやり方で落とし前をつけるなんて、ナンセンス以外の何者でもなくて素敵だった。そこでの池谷・原夫妻の愛情のあたたかさといったらどうだ。たまらなかったです。
あ、ちなみにカーテンコールでケラさんが出てきて挨拶をしていたんだけど、髪の毛真っ黒で、結わいてなかったので、おお、と。「今日なんかはもう、渋谷とか、男と女がすっごいことになってますから」と、おっさんトーンともまたちょっと違う、クリスマスに浮かれるカップルたちを揶揄しようとする熱意が空廻って何に対しての毒を吐いているのかひとつも分からないような感じになっちゃってるところに笑った。パンフも買ったんだけど、これは読みでがありそう。後日ゆっくり。