ラスト・フレンズ

あーあーあー、やっちゃったー、みたいな。
先週ラストの緊張感がすごかったと思うんですが、あそこが絶頂だった。今週はひたすら冗長、尻すぼみで、全体的に圧倒的に、がっかり感は否めない展開だったなあああ。
瑠可がレイプされなかったのも肩透かし、宗佑を唾棄し続けるエリに宗佑が仕返ししないのも肩透かし、週刊誌に性同一性障害だってスッパ抜かれたのに対美知留以外の瑠可の社会的ダメージゼロなところも肩透かし、あれだけタケルに噛んで含んで言い聞かせられていたのに、あっさり自分から「ここに残ってもいい」なんて言っちゃう美知留の学習能力の低さも肩透かし、そこまで怯えてるなら普通何言われても荷物自分から取りに行ったりしないっつのっていういい加減なところも肩透かし、美知留が泣き止まないだけで絶望して手首切っちゃう宗佑の閉じっぷりも肩透かし。あーあーあー。
やー、別にさあ、瑠可がレイプされてほしかった訳じゃないんですよー? そういうシーンがあったらこええええええなああああああ、といろんなことがこわくてしょうがないモード発動中のわたくし、結構覚悟を持ってきのうの放送時刻に臨んでおったくらいで。でもそしたら、放送開始後ものの3分で瑠可はあっさり貞操の危機を脱出…うーん。あの時点で、このドラマのユルさがわかった気がしたなあああ。スキャンダラスな要素をてんこ盛りにしたけど、ちゃんとその要素の背景を掘り下げたり、そういった要素を現実に抱える人たちの葛藤を消化・昇華するような意識もなく、脚本的に都合がいいように、スキャンダラスの「スキャ」くらいを取り込んで話を引っ掻き回しているだけっていう。あのねえ、もうねえ、週跨ぎで視聴者をひきつけるためだけの危機感なんてうんこなんだぜ!(暴言)
…いや、別にヤラれるべきだった、とは思ってません。でも、ヤラれないまでも、もうちょっと描きようがあったんではないのかなあと思います。「何もしてない、でもアイツのプライドをズタズタにしてやった」みたいなことを言ってましたけど(そしてその発想は非常に宗佑らしいと思うのですけども)、シャツをはだけさせて首に唇を這わせるだけで瑠可のプライドがズタズタになるのか? っていう疑問は残る。トランスジェンダーの子は、普通に暮らしているだけでもかなりしんどい思いを多くしている訳で、そこまで打たれ弱いのか? っていうのは大変に疑問。
これは図らずも宗佑が看破したよう、女の子としても身体がちっちゃいほうなのに、成人男性と腕力で渡り合えると錯覚してる瑠可の「バカ」さ、のありえなさとも連動する。単身で宗佑んちに乗り込んで行った時点で、力でかなわない可能性を考慮してれば、あれっぽっちのことでズタズタになんかならんだろう、っていうね。セクシャルマイノリティの人はむしろ、自分があるべき姿ではないことには人一倍過敏(苦痛を感じている、という意味で)なはずで、海外に行って手術するのだー、とか言ってる瑠可が、まっさらの「女性」である自分の身体が物理的に成人男性とどれほど違っているのか、についての自覚がないというのは、脚本論的に完全に矛盾していると思うのだけどいかがか?
モトクロスという男性主導の世界で戦っている、という設定は、「あるべき自分=男性」との落差を努力で埋めようとしているようにも取れるけれども、レースで男性を負かしたからって「あるべき姿」に近づくということではないし。トランスジェンダーのひとにホルモン注射したり過剰に身体を鍛えたりしているひとが多いのって、物理的なことでこの落差をどうにかしよう、っていう努力の方向性がこういう形でしか実現できないからでしょ? そのへんの難しさや葛藤が、瑠可のキャラクターには感じられない訳ですよ。んー、物足んねえなあ。
これは先週文句書いた、 DV をする宗佑のキャラクターがわかんねえ、っていうのに通じていて、宗佑が美知留に何を求めているのかがさっぱりわからない…って思って先週まで観ていた。こころが伴わなくても美知留が自分のそばにいるだけでいいのなら、はじめからもっと力づくで拉致っただろうし、美知留に自分だけを愛してほしいっていうことなら、嘘をついておびき寄せるやり方が稚拙すぎて逆効果な訳だし。
女を殴ってしまうことについて、宗佑自身がどう考えているのかがわかんなかったんですよね。普通、「女なんか殴るもんだ」っていうマッチョな価値観の男じゃない限り、殴りたくて殴ってる訳じゃない、っていう葛藤がなきゃ嘘だと思うんですよ。「殴りたくないのに殴らせるお前のせいだ」みたいな理論のすり替えとか、殴った後の贖罪としての過剰なまでのやさしさみたいなものがなきゃ、あんなに殴るモチベーションは保てまい、と思う。美知留の料理の手際が悪いから殴った、みたいなエピソードがあったと思うけど、そういう殴り方するのはマッチョな殴り男で、でも宗佑がマッチョならもっと早くにタケルを殴っていただろうし、嫌がらせのビラをまいたり、美知留の母親に金を渡すようなやり方も、マッチョのやることにしちゃあまどろこっしいと思う。
でも、マッチョじゃないのに、葛藤もなく女を殴っていたら、それは理屈に合わない、突然変異的な殴り男、モンスターじゃないですか。マッチョな理屈で殴るんじゃない限り、男がひどく女を殴るのは、男自身が追いつめられている場合だけだとわたしは思っているんですが、宗佑がなぜそこまで追いつめられなきゃならないのか、その切実さが先週までの時点では見えてなかった訳です。それが不満ちゃ不満だったのだけども。
でも今週の宗佑の描き方には急に、この葛藤というか、追い込まれてるっぷりががっつり表現されていて、写真見て泣いてるあたりで、わあ、このひとしぬ? らいしゅうしぬんじゃない? そういうけっちゃく? って思って、あらあ、じゃああしたはてなにかこう、とか思っていたら、呆気なく今週の間に血だらけになってしまって、母さん、たいそう唖然としました。なんか先週までと人がちがうじゃーん! っていうね…急変すぎてびっくり。今までも追い込まれていたとでもゆーのでしょうか。そんな描写なかったじゃーん。ぬー。
まあ、一事が万事そんな感じで、葛藤が浅っいのよみんな。どんなひとだよ?! って思うひとばっかり。「シーンとして見えてないだけで、ホントは葛藤してるんですうー」というのなら、推理小説での約束事*1、「謎を解決するのに必要な要素は読者が知りうる形で作中に登場していなければならない」というのにも通じるのですが、フィクションとしての精度が低いってことに他ならないと思う。「えっとー、このひとはー、おんなをなぐるおとこのひとなんですねー」って馬鹿みたいに説明された(ようなシーンを見せられた)だけで、その人物がそうせざるをえない背景とか、必然性とかはまったく見えてこない。2時間ドラマの端役じゃあるまいし、扱いが雑すぎて呆れるしかない。美知留があまりにもあまりにもアホなのも、「愛情に飢えた流されやすい女の子」っていう設定だけで行動させているからじゃないのか。人間、そんなに短絡的でいられないでしょうに。全部そうだよ、このドラマ。なんだかなあ、という感じ。
でも、役者さんは皆さんとてもがんばっているように思うのですよね。吉祥寺・無印良品の試着室でシャツを着替える瑠可の泣き顔の痛々しさったらなかったぜ。エリが宗佑に変なシンパシーを感じているところ、その結果として激しく叱責してしまうところはとてもよかったと思います。エリは全体的に、すっごい活き活きしてた。タケルもいいけど、トラウマ部分はあんまり活きてないかもしれん。
つか総じて皆、いい子たちとして描けているのに、過剰な要素(DV、セックス恐怖症、性同一性障害)についてはうまく活かしきれていないように思うのです。脚本家のキャパというか、適性の問題なんだろうなあ。無理やりショーゲキ要素詰め込んじゃいました☆ みたいな感じ。向いてないの書かされたほうも可哀想かも。多分、スキャンダラスな要素がない、普通の若者群像劇としてなら、基本的にはこのままのキャラクター設定でもみんな魅力的でよかったと思う。どっちの意味でも勿体ないなあと思いました。
ともあれ、宗佑が死んで、美知留の妊娠がわかるでしょ? 美知留が瑠可たちの前から姿を消すでしょ? んで? どう締めくくるのでしょうか? 来週時間拡大するんだもんね…そんなに描かなきゃならんことが残っておるのか? 来週が最終回、その翌週が「特別編」てことですが、そこまで引っ張らなくても別にいいんじゃ…って気も。何か最後に意表をつくような、それでいて無理も矛盾もないような、そういうエピソードが出てくると楽しんだけどなあ。難しそうな気はしつつ、ここまで来たら楽しみに観ます。うん。

*1:「アンフェア」の原作はこの約束事が守られていない推理小説を「フェアではない=アンフェア」とする、その地点から物語を始めていた。確か。ドラマではもうちょっと、「お前ばっかり」みたいな意味で「アンフェア」っていう単語が使われていたように思う。