Period (3)/吉野朔実

period 3 (IKKI COMIX)

period 3 (IKKI COMIX)

3巻が出る、と聞いて1巻、2巻を読み返した上での購入、すぐ読んだ。ううう、こわかったああああ…。わたくし、吉野朔実で人生変わった、と思ってる人間ですが、「少年は荒野をめざす」に出会った中2のとき、最初に手にとったのがこの作品だったらきっと、吉野さんに傾倒はできなかったと思う、こわすぎて。
これは、大学教授を父に持つ小学生の廻(ハルカ)と能(ヨキ)兄弟の物語。父はロジカルで凶暴で厳格、ちょっとしたことで兄弟を叱り、殴る蹴るの暴行を加える。1巻では、壁に口紅と血のあとを残して母親が失踪するところから物語が始まる。母のいない、恐怖と独裁の暮らしが始まり、兄弟は支え合うようにして暮らすのだけれども、日に日に父の暴力はエスカレートし…という話。
1巻は父親の暴力と存在、2巻は学校の先生の廻に対するいじめがこわかったけど、この3巻は言うなれば、廻がどんどんひとりになってゆくこわさ。今は一番身近にいる能だけど、いつか、廻にとって一番おっかない存在になりそうで、その予感だけでも充分こわい。廻の中学の友達との関係が良好なところだとか、久々に登場したまいらが活き活きしてて魅力的だったところだとか、うれしく、楽しく読んだ部分もいっぱいあったんだけども。
なんか、金持ちのお嬢さん(名前忘れちゃった…)が出て来て一気に吉野さんらしさが全開になった感じがする。女の子の偽善を、キツい方法で切り取るシーンが吉野作品にはよく出てくるけれども、今回はまた一段と厳しくて、その役割を負わされている「まいら」の強さ、強さと背中合わせのブスっぷりがつらくて、読んでいて声を出して「うひー」とか言ってしまった。まいら…大好きなんだけど、すごいブスに描かれていてすごいの…あのブスさは本当にすごい、生々しくブス。ブスをリアルに描ける少女漫画はそれだけで強いよなあ、と思う。
吉野さんはなんだか、ある時期以降ほんとうに救いがないものを描くようになった気がする。いや、もともと救いなんて描いてなかったのかもしれないけど、わたしには、「ジュリエットの卵」くらいまでは、確かに(どれだけいびつであっても)何らかの救いを描いているように読めて、うそっぽくないカタルシスをちゃんともらえたと感じられていた。転機になったのは「Eccentrics」かなあ、あのラストが救いなのか絶望なのか、いまだにわたしには判断がついていないのだけれども。
ただ、吉野さんの描く作品には、絶望であってもリアリティと切実さがあって、こわかったり痛かったりしても、引き込まれて読んでしまう。あり得ないような設定の上で描かれていても必ず、描きたいと思っているものへの深い考察と謙虚さがあって、読んでいるうちに気持ちがざわざわして、不安やこわさをぐいぐい引き出されれる。だからって、例えばワイドショーのように、一方的に人間の嫌なところを引っ張り出して面白がるようないやらしさはない。描き方には慎み深さがあって、だから享楽的に無責任に、美容院で女性週刊誌を読むみたいには読めず、作り事なのに本当にこわい、と感じてしまう。
エッセイ漫画を読めば読むほど、吉野さんはヒト好きするというか、人間大好きだなーと思うんだけど、その上でこんなに人間のこわいところを丹念に丹念に見つめて作品を描く、っていうのが、すごいし、こわいし、ある意味ちょっと気持ち悪い。でもその気持ち悪さはきっと、わたしにとっては必要な気持ち悪さなんだなあ、と思います。この3巻で久しぶりに吉野朔実のおっかなさを思い出してしまって、旧作全部読み返したい気分になった。
にしても、最近寡作だとは言え、最近の漫画の話をする人の中で吉野さんについて触れる人が少ないことが不思議でならない。こんな領域に到達しちゃってるのに、少女漫画から出てると、いわゆる「漫画読み」を自認する人たちもあんまりフォローしないのかねえ。この3巻が書店で並んでいるのを見ても、1巻、2巻を置いてあるところが少ないのも、なんだかなあ、って思う。まあ、確かに1冊1050円もするんですけどもね…わたしもレジで息飲んじゃったけどね…。