パリ季記―フランスでひとり+1匹暮らし/猫沢エミ

パリ季記―フランスでひとり+1匹暮らし (天然生活ブックス)

パリ季記―フランスでひとり+1匹暮らし (天然生活ブックス)

お風呂で読む本がなくて本棚からなんとなく手に取って再読、読み直しても面白かったです。
ミュージシャン、コラムニスト、映画評論家、等々、日本でいろんな仕事をしていた猫沢さんが、30過ぎに思い立ってパリに移住するまでと、移住してから直面した「日本人から見たパリのいろいろ」をまとめた本。金融機関、語学学校、住宅、食料、文化、等々、具体的な情報が盛りだくさんなので、パリへの留学とか移住とかを考えてる人だったらすごく参考になるんだろうなーと思います。
でも、わたしはそういう予定は特にないし、5年近く経ってることで、そういう具体性が持つ魅力はちょっと目減りしたかな、という風に感じられたのも事実。なので、面白がるポイントはそこではなくてですね…多分、猫沢さんの中に、日本のメディアで扱われがちな「パリ=シャレオツ」なイメージに対する反発がものすごく大きくあるからなんだと思うんだけど、「パリに住むのってこんなに大変ですよ!」「全然皆さんが憧れてるような街じゃないんです!」「でもわたしはそういう面倒臭いパリが大好きなんですけどね!」というのがにじみ出てて、そこがすごく読み応えがあったんでした。
なんというか、ダメ男のことを愚痴った挙句、「でも、アイツはわたしがいないとダメだからサ…」って嬉しそうに言う女の人みたいだわーっていう感じ…こんなにダメな男(街)なんだよ! というエピソードに、異様な熱量が込められてるのがすごくって、そういう描写んところは筆走ってる感じがガンガン伝わってきて笑えました。わたしは本当のパリを知ってる! っていう矜持みたいなのもチラチラ見えるけど、比較的筆致は冷静なのでさほどいやみにも感じず。多分、感じ方は充分感情的なんだけど、文章に落とすときに冷静になる習慣がついているってことな気がしましたが。
でも、買って読んだときよりこっちも年齢取った分、再読したら、なんでそんな面倒臭い思いしてまでパリに住まなきゃならんのか…という自分の中の気持ちは強まっていて、ああ、年齢とともに感覚が保守化しているなわたし、と思いました。最初に読んだときと今だと、結婚したっていうのも違いとして大きいのかもしれない。でも、それを差し引いたって、パリならではの面倒臭さってとんでもねえな、ってオエってなったね…そんな思いしてでもパリじゃなきゃいけない、っていう目的がある人じゃないと、住むのがキツい街なんだなあ、と改めて再認識。
でも、多分それって、パリ固有の面倒臭さにだけ起因してる訳じゃないんでしょうね。地盤、歴史、背景、文化が違う国、街に移るときには、「そこでなきゃ」っていう強いモチベーションがないと、どこだって、誰だってしんどい。この本は、そういうことを根底にかかえているような気がしました。その証拠に、わたしはこれを読みながら、猫沢さんが「パリに住もう」って思ったモチベーションにまったく共感できず、自分にとってそういう思いを駆り立てる国、街ってあるかな…と考えた結果、出てきた「京都」って答えを終始投影して読んだら、すごく納得感があったもん。「パリ」を「京都」に置き換えれば、「なんでそんな面倒臭い思いをしてまで…」がすっと自分の感覚に馴染んで感じられた。そういう意味で、すごく楽しんで読んでしまいました。
その後猫沢さんは病気したり帰国したりして、仕事でパリにある程度の期間行ったり、また戻ってきたり、を繰り返しているもよう。世の中のムード(景気とか)も変わっただろうし、今だったらまた違った視点で「別の文化を持つ場所で暮らすこと」について書くのかな、とも思いました。読んでみたいような気もするし、深すぎて読みづらそうな気もします。うん。